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排除するべき害獣

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セルゲイは言う。

「環境の変化というのは、様々な要因によって起こる。原始地球において光合成を行う微生物が大量に発生し、それによって酸素量が爆発的に増え、結果としてそれまで繁栄していた生物の大絶滅が起こった。

特定の生物の活動によって多くの生物が死に絶えるというのは、何も人間に限ったことじゃない。

また、悠里ユーリも聞いたことがあると思うけど、恐竜の大絶滅は隕石の衝突が原因とも言われている。

そして、大絶滅が起こったからといって、地球という惑星そのものが消えてなくなったわけでもない。

つまり、生物の活動は、地球そのものの存続には直接は影響しないんだよ。

地球環境を守らなければいけないというのは、あくまで人間自身が生存可能な環境を守らなければ生きていけないという事情に過ぎない。

でも、それでいいと僕は思う。

地球環境を乱す人間という存在は地球にとって害悪だと考えるのは、暴論だと思ってる。

もちろん好ましいことじゃないのは事実だろう。それによって貴重な種が永遠に失われてしまうというのは大変な悲劇であり、極力回避するべきだとも感じてる。

だけどそれと人間を<悪>だと断じることは直結しない。

それを悠里には理解してもらいたいと思うんだ」

あくまで穏やかに諭すようにセルゲイは言った。彼は決して、悠里の前で人間を敵視しない。

寿命の長い吸血鬼やダンピールにとって僅か十三歳と幼い彼にそういう先入観を植え付けるのは非常に危険なことだからだ。

ただでさえ野生のライオンのような強い攻撃性を持つダンピールに、

『人間は排除するべき害獣だ』

というような認識を植え付けることがどれほど危険なことか、冷静に物事を捉えられる者なら分かるはずだ。

だから、悠里の父親であるミハエルは当然として、セルゲイも意識してそれを避ける。

悠里や安和アンナが人間を敵視しないのは、そういう周囲の<大人>の努力があってこそのものでもあった。

そんなミハエルやセルゲイとは逆に、他人を敵視し攻撃性を向けるように促すような真似をしておきながら実際に子供が他人への攻撃性を見せたらそれを子供の所為にするなど、いささか甘えが過ぎないだろうか?

自分達が道理に合わない振る舞いをしておいて、そういう悪い見本を提示しておいて、

『子供には道理が理解できない』

など、マッチポンプが過ぎないだろうか?

ミハエルもセルゲイもその事実を理解しているからこそ注意を払う。それを面倒臭がったりもしない。

自分達こそが子供の価値観やメンタリティを育てているのだということを、その事実をしっかりと認識しているのだった。

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