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環境の変化

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悠里ユーリ、見てごらん、コーカサスオオカブトだ」

セルゲイにそう言われて、指を差して示されて、ようやく、

「あ…!」

悠里は長い角を持った大きな黒い甲虫に気が付くことができた。

「すげえ……!」

図鑑や動画でしか見たことのないそれに、いかにも男の子らしい反応を見せる。

しかし……

「…て、あれ……?」

何とも言えない違和感に思わず声が漏れる。

するとセルゲイが言った。

「気が付いたかい?」

続けて悠里が。

「角が短い……?」

そう。悠里が口にした通りだった。図鑑や動画で見たコーカサスオオカブトは、自身の胴体部とほとんど変わらない長さの立派な三本の角が特徴だったはずなのに、今、彼の視線の先にいるそれは、確かに三本の長い角を持ってはいるものの、明らかに悠里が知っているものよりも短いような気がしたのだ。

「コーカサスオオカブトじゃない……?」

ついそんな風に言ってしまったが、セルゲイは首を横に振った。

「ううん。これは確かにコーカサスオオカブトだよ。でも、最近はこういう角の短い個体が増えてきているとも言われているんだ。

人間による環境破壊の影響と唱える専門家もいるけど、はっきりと原因は断定はされていない。それも影響している可能性は否定できないとしても、僕の口からは断言はできないな。

ただ、現にこうして角の短い個体がまず見付かったというのは、何かを示唆しているような気はしてしまうね」

セルゲイは冷静にそう説明した。彼は、目の前の事象を人間を批判するために使うことは基本的にしない。可能性を指摘することはあっても、だからといって人間を断罪するつもりはなかった。

何か間違いがあるのなら、それは正していけば済むことだ。間違っている、正しくないことをしているという一点だけを挙げて『だから人間は駄目だ』とか『人間は害悪だ』とか『人間には価値がない』とは言わなかった。吸血鬼である自分が人間の価値を断ずるのは、おこがましいことだと思っていた。

「たとえ角が短くても、彼はこうして生きている。そして角が短いということは、環境の変化に適応しようとしている生物としての戦略かもしれない。

生物に対して『こうあるべきだ!』と決め付けるのは実は危険なことである可能性もあるんだよ。

環境の変化というのは、必ずしも人間によってもたらされるものばかりとは限らない。これまでに地球上で起こったとされている生物の大絶滅や環境の激変は、それこそ人間がいなかった頃にも起こっていたからね。

つまり、環境というのは常に変化し続けていると言えるんだ。

人間の活動による環境の変化が問題になるのは、それが結局、人間自身が生きていくのに適さない環境になってしまうかもしれないという部分なんだよ」

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