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命の濃度

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なんてこともありつつ、セルゲイと悠里ユーリはようやくプンチャックへと到着した。

<人里離れたジャングル>という風情はありつつも、いわゆるドライブイン的な道路沿いのレストランには人の姿も多い。もっとも、それらの多くが<昆虫採集ツアー>の客だったけれど。

セルゲイがその駐車場に自動車を停めると、悠里も自分でチャイルドシートのベルトを外し、セルゲイに抱かれて車外に出た。

レストランで夕食をとり、しかし他のツアー客らとは離れてジャングルへと入っていく。

もちろん、幼い子供を連れて勝手にジャングルに入っていけばそれを見咎められる可能性もあったので気配は消して。

そこは、<緑の匂い>が体にねっとりとまとわりつくほどに濃密な場所だった。命がとても濃い。

立っているだけでエネルギーが沁み込んでくる気さえする、

「すごい……」

悠里が呟く。体が幼く小さい彼だとそれこそ命の濃度にてられそうだ。

そんな悠里に気付いて、セルゲイが言う。

「悠里、自分と自分以外の命とをしっかりと認識するんだ。飲み込まれないように。そうすると楽になる」

「あ…うん。分かった」

セルゲイのアドバイスの通り、悠里は自分自身を強く意識した。すると、自分と自分以外との境界がはっきりしてきて、意識が鮮明になっていく。

『そうか…こういうことか』

そんな悠里の様子を確かめ、セルゲイはさらに付け加える。

「慣れてくると逆に自分を周囲の命に溶け込ませるようにもできる。すると吸血衝動も抑えられるよ。実際、その状態で何十年も生き続けてる吸血鬼もいる。もし機会があれば会いにいってみよう」

と。

「へえ…!」

セルゲイは、こうして生物を追いかけて世界中のありとあらゆる場所を訪れ、実際にそれぞれの空気や命に触れてきているので、ミハエル以上にたくさんのことを知っていた。

まあ、その辺は年齢も百歳以上年上なので当たり前かもしれないが。

しかし今は昆虫が先か。

アドバイスのおかげで楽にはなったものの、まだ十分に体が慣れていないので、セルゲイは悠里を抱いたまま、まるで人混みの中を歩くように、するするとジャングルの中を進んだ。

感覚が鋭い吸血鬼は人間のように迷ったりはしないし、もし万が一迷ったところで強靭な命を持っているから生きていくのも容易い。

そうして緑の中を移動しながら、悠里も濃密な命の気配をたっぷりと味わっていた。油断していると鼻血が出そうな気さえする。

ただ、その所為か肝心の昆虫が見付けられない。命の気配が濃すぎて見分けがつかない。

この辺りも悠里の未熟さゆえだろう。

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