43 / 571
友人
しおりを挟む
『子供は親を選べない』
これは厳然たる事実だった。人間よりはるかに強い力を持つ吸血鬼でさえそれは変わらない。だからこそ長く苦しむことになった事例をミハエルは知っていた。
<実験>のために人間との間に子供を次々と作って、ダンピールを生み出していた吸血鬼もいたということを。
その話を知るからこそ、ミハエルは悠里と安和を慈しんだ。その事例のダンピールと同じ境遇を味わわせないように。
するとこんなにも心優しい穏やかな気性のダンピールに育ってくれた。
性格や人間性は遺伝だけで決まってしまうわけじゃないことの何よりの<証拠>だった。
『生まれつきの性格だから仕方ない』
などと口にするのは、自身の努力が足りないことを誤魔化すための言い訳でしかないと思っていた。
救急車に乗せられて搬送されていく様子を見守りながら、
『これであの子の人生が大きく変わってくれるといいんだけど……』
とも思った。
その子供は、病院で治療を受けた後、児童養護施設で保護されることになる。それは、ミハエルの<友人>の一人が運営する施設だった。彼はそこに電話し、保護してもらえるかどうか確認したのである。
ちなみにその<友人>は普通の人間だった。ミハエルとアオに命を救われただけの。
悠里が生まれる以前、ここジャカルタに取材のために旅行に来たことがあって、その時に今回のようにミハエルに救われたのが縁で友人となり、後年、立ち上げたインターネット関連企業が躍進。それによって得た資金で児童養護施設を運営し、ストリートチルドレン等の苦しい状況にいる子供達を支援しているということだ。
当該の児童養護施設そのものは設立されてからまだ三年と日は浅いものの、実際に現場で運営に当たっているのは経験豊富な人材で、必要な設備や環境を整えるという形でバックアップしている状況なので、<友人>自身はまだ二十代前半の若者でも、しっかりと実績は積み重ねられていた。
今回はその伝をたどって、子供を保護してもらったということになる。
ミハエルはわきまえていた。
『必要なのは口先だけの同情ではなく、実効性のある対応だ』
ということを。だから現実に則し対処した。
それでもあの子供が幸せになれるかどうかは分からない。こればかりは結果が出てからでしか判断できない。
「あの子も幸せになれたらいいね……」
安和がミハエルに抱きつきながら言う。
「…そうだね…僕もそれを祈ってる……」
ミハエルにできることはここまでだ。彼が守るべきは彼の家族であって、それ以外はいわば<ついで>に過ぎない。
たまたま<当て>があったから手を差し伸べただけなのだから。
これは厳然たる事実だった。人間よりはるかに強い力を持つ吸血鬼でさえそれは変わらない。だからこそ長く苦しむことになった事例をミハエルは知っていた。
<実験>のために人間との間に子供を次々と作って、ダンピールを生み出していた吸血鬼もいたということを。
その話を知るからこそ、ミハエルは悠里と安和を慈しんだ。その事例のダンピールと同じ境遇を味わわせないように。
するとこんなにも心優しい穏やかな気性のダンピールに育ってくれた。
性格や人間性は遺伝だけで決まってしまうわけじゃないことの何よりの<証拠>だった。
『生まれつきの性格だから仕方ない』
などと口にするのは、自身の努力が足りないことを誤魔化すための言い訳でしかないと思っていた。
救急車に乗せられて搬送されていく様子を見守りながら、
『これであの子の人生が大きく変わってくれるといいんだけど……』
とも思った。
その子供は、病院で治療を受けた後、児童養護施設で保護されることになる。それは、ミハエルの<友人>の一人が運営する施設だった。彼はそこに電話し、保護してもらえるかどうか確認したのである。
ちなみにその<友人>は普通の人間だった。ミハエルとアオに命を救われただけの。
悠里が生まれる以前、ここジャカルタに取材のために旅行に来たことがあって、その時に今回のようにミハエルに救われたのが縁で友人となり、後年、立ち上げたインターネット関連企業が躍進。それによって得た資金で児童養護施設を運営し、ストリートチルドレン等の苦しい状況にいる子供達を支援しているということだ。
当該の児童養護施設そのものは設立されてからまだ三年と日は浅いものの、実際に現場で運営に当たっているのは経験豊富な人材で、必要な設備や環境を整えるという形でバックアップしている状況なので、<友人>自身はまだ二十代前半の若者でも、しっかりと実績は積み重ねられていた。
今回はその伝をたどって、子供を保護してもらったということになる。
ミハエルはわきまえていた。
『必要なのは口先だけの同情ではなく、実効性のある対応だ』
ということを。だから現実に則し対処した。
それでもあの子供が幸せになれるかどうかは分からない。こればかりは結果が出てからでしか判断できない。
「あの子も幸せになれたらいいね……」
安和がミハエルに抱きつきながら言う。
「…そうだね…僕もそれを祈ってる……」
ミハエルにできることはここまでだ。彼が守るべきは彼の家族であって、それ以外はいわば<ついで>に過ぎない。
たまたま<当て>があったから手を差し伸べただけなのだから。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
(旧作)プライベイト・ヴァンパイア(三人称版)
葉月+(まいかぜ)
ファンタジー
極東の島国。稀少人種の保護特区に生まれ、無辜の民に仇なす人外化生を討つ剣として育てられた護家八坂の長子、八坂伊月はある夏の日、今とはまったくの別人として生きていた自身の前世を思い出す。
かつて〔杯の魔女〕と綽名された女魔術師の記憶と異能は幼い伊月にとっての「世界」を一変させ、その周囲に対しても様々な影響を及ぼしていく――。
※やさしいあらすじ※ ⇒うっかり死んで、いつの間にか生まれ変わっていた吸血鬼の花嫁ちゃんが、今度こそちゃんと「しあわせ」になろうと頑張るすこしふしぎなファンタジー。
※ないよう※ ⇒現代日本よりも少しだけ進んでいるような、そうでもないような異世界の極東で、そこそこ凄い魔術師ちゃんがべらぼうに強い旦那同伴でお仕事を頑張ったり、趣味に走ったりする日々のあれそれ。(メインカップルは最初から出来上がっているので恋愛要素は添える程度、カップル成立までのじれじれもだもだ展開が苦手な方にオススメ)(人形遊びとバケモノ退治が得意な女の子が好きな方にもオススメです)
※表紙素材 ジュエルセイバーFREE( http://www.jewel-s.jp/ )
神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。
そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。
自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。
そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。
九龍懐古
カロン
キャラ文芸
香港に巣食う東洋の魔窟、九龍城砦。
犯罪が蔓延る無法地帯でちょっとダークな日常をのんびり暮らす何でも屋の少年と、周りを取りまく住人たち。
今日の依頼は猫探し…のはずだった。
散乱するドラッグと転がる死体を見つけるまでは。
香港ほのぼの日常系グルメ犯罪バトルアクションです、お暇なときにごゆるりとどうぞ_(:3」∠)_
みんなで九龍城砦で暮らそう…!!
※キネノベ7二次通りましたとてつもなく狼狽えています
※HJ3一次も通りました圧倒的感謝
※ドリコムメディア一次もあざます
※字下げ・3点リーダーなどのルール全然守ってません!ごめんなさいいい!
表紙画像を十藍氏からいただいたものにかえたら、名前に‘様’がついていて少し恥ずかしいよテヘペロ
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
願いの物語シリーズ【天使ましろ】
とーふ(代理カナタ)
キャラ文芸
その少女はある日、地上に現れた。
――天使ましろ
少女は願う「みんなを幸せにしたい」と。
これは天使ましろと、彼女を取り巻く人々の物語。
☆☆本作は願いシリーズと銘打っておりますが、世界観を共有しているだけですので、単独でも楽しめる作品となっております。☆☆
その為、特に気にせずお読みいただけますと幸いです。
半妖の陰陽道(覚醒編)~無能と言われた少年は、陰陽師を目指し百鬼夜行を率いる~
高美濃 四間
キャラ文芸
鬼屋敷龍二は、国家最強クラスの陰陽師を母に持ち、そうなろうと努力していた。
しかし彼に才能はなく、ついに諦めてしまう。
だがあるとき、突然母が死に、謎の妖刀が龍二へ託された。
妖に襲われ、危機に陥った幼馴染を救うため、龍二は刀を抜く。
「――来いよ、クズ」
異様な姿へと変貌する龍二。
全身を駆け巡る血は熱く、思考は冴えわたる。
ついに、強大な封印は解かれた――
半妖が陰陽師となり、百鬼夜行をも従える、熱血! 和風バトルファンタジー開幕!
※1/7 キャラ文芸ランキング14位を記録
※本作は、小説家になろう様、エブリスタ様でも連載しております。
視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―
島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる