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友人

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『子供は親を選べない』

これは厳然たる事実だった。人間よりはるかに強い力を持つ吸血鬼でさえそれは変わらない。だからこそ長く苦しむことになった事例をミハエルは知っていた。

<実験>のために人間との間に子供を次々と作って、ダンピールを生み出していた吸血鬼もいたということを。

その話を知るからこそ、ミハエルは悠里ユーリ安和アンナを慈しんだ。その事例のダンピールと同じ境遇を味わわせないように。

するとこんなにも心優しい穏やかな気性のダンピールに育ってくれた。

性格や人間性は遺伝だけで決まってしまうわけじゃないことの何よりの<証拠>だった。

『生まれつきの性格だから仕方ない』

などと口にするのは、自身の努力が足りないことを誤魔化すための言い訳でしかないと思っていた。

救急車に乗せられて搬送されていく様子を見守りながら、

『これであの子の人生が大きく変わってくれるといいんだけど……』

とも思った。

その子供は、病院で治療を受けた後、児童養護施設で保護されることになる。それは、ミハエルの<友人>の一人が運営する施設だった。彼はそこに電話し、保護してもらえるかどうか確認したのである。

ちなみにその<友人>は普通の人間だった。ミハエルとアオに命を救われただけの。

悠里が生まれる以前、ここジャカルタに取材のために旅行に来たことがあって、その時に今回のようにミハエルに救われたのが縁で友人となり、後年、立ち上げたインターネット関連企業が躍進。それによって得た資金で児童養護施設を運営し、ストリートチルドレン等の苦しい状況にいる子供達を支援しているということだ。

当該の児童養護施設そのものは設立されてからまだ三年と日は浅いものの、実際に現場で運営に当たっているのは経験豊富な人材で、必要な設備や環境を整えるという形でバックアップしている状況なので、<友人>自身はまだ二十代前半の若者でも、しっかりと実績は積み重ねられていた。

今回はそのつてをたどって、子供を保護してもらったということになる。

ミハエルはわきまえていた。

『必要なのは口先だけの同情ではなく、実効性のある対応だ』

ということを。だから現実に則し対処した。

それでもあの子供が幸せになれるかどうかは分からない。こればかりは結果が出てからでしか判断できない。

「あの子も幸せになれたらいいね……」

安和がミハエルに抱きつきながら言う。

「…そうだね…僕もそれを祈ってる……」

ミハエルにできることはここまでだ。彼が守るべきは彼の家族であって、それ以外はいわば<ついで>に過ぎない。

たまたま<当て>があったから手を差し伸べただけなのだから。

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