ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十

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これいい!

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渋滞に巻き込まれた自動車よりもずっと早く、ミハエルと安和アンナは目的の場所に来ていた。

そこは、基本的には地元の人間が多く、外国人はあまり来ないショッピングセンターだった。なるほど外国人向けの、綺麗に整えられすぎてむしろどこの国なのか分からなくなってしまっているようなところとは趣きが違っていた。

民族衣装やそれに合わせたアクセサリーが店頭に並んでいる。

「わあ♡」

独特の空気感に、安和のテンションが上がる。

そこを、基本的には気配を消した状態で見て回った。

「あ、これいい!」

そして『これ』と思うものがあれば、たまたまそこに居合わせた他の客の連れのように振る舞い、堂々と買った。お金を出すのはもちろんミハエルである。

安和自身のために買うものであれば自分で出してもらうけれど、今回のはそうじゃなかった。<バティック>と呼ばれる、まるで夢に出てくるような不可思議な模様の布地で作られたワンピースだ。アオと椿つばきへのお土産のためだった。

先のイルカのブローチと合わせて送る。

「正直、普段使いにするにはちょっと勇気がいるかもだけど、やっぱお土産ってその土地の雰囲気を持ってるものじゃないとだよね~」

「そうだね」

ミハエルが笑顔で返す。

そうしてショッピングを楽しみ、食事も楽しんだ。

安和はとても満足そうだ。

その後、街を二人で歩く。人間達は気付かないけれど、吸血鬼達はこうして人間社会に紛れ込んでいる。悪意で何かをしようとすればそれこそやりたい放題だ。

けれど彼らはもうそういうのは放棄した。メリットよりもデメリットの方が大きいから。

人間なら危険な路地裏でも、気配を消して歩けばトラブルに巻き込まれることもない。

でもその時、

「パパ…あの子……」

安和が不意にミハエルに声を掛けた。その理由をミハエルも察する。

正直、不潔で何とも言えない臭いが立ち込めている路地裏の隅に、何かが落ちていた。日が落ちて町の灯も届いてない路地だったから人間の目には分からなかっただろうけど、吸血鬼であるミハエルとダンピールである安和の目には昼間と変わらずに見えている。

人間だった。それも、子供だ。安和よりは大きいが、ミハエルよりは小さい子供だった。

それが路地裏の隅に横たわっていたのだ。生きているのは呼吸と心音で分かるけど、その体にはハエがたかってる。

ストリートチルドレンだろうか。

「これも人間の社会の現実だね……」

「……」

ミハエルの言葉に、安和は言葉もなく俯いた。

するとミハエルは携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけ始める。

「うん、そうなんだ。一人。年齢は五歳から七歳くらい。性別は……たぶん男の子。お願いできるかな?」

そうしてやり取りをして電話を切り、安和に向き直る。

「すべてのこういう子を救うことはできないけど、出逢ってしまったからね」

穏やかに言うミハエルに、

「うん…!」

安和も頷いたのだった。

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