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おやすみ~♡

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結局、セルゲイと悠里ユーリは夜明け近くまでただ蝶を眺めていただけだった。

いや、厳密には蝶がいた環境そのものを感じ取っていたので、『眺めていただけ』ではないけれど。

「じゃあ、今日のところはホテルに帰ろうか」

白み始めた空を見上げて、セルゲイはそう悠里に告げた。

「うん」

悠里も素直に頷く。その表情はどこか満足げだった。

するとセルゲイは悠里を抱き、トン、と地面を蹴った。瞬間、まるで重力を感じさせない軽やかさで、二人の体が宙を舞う。

「このままホテルまで戻るよ」

ずっと蝶のそばで地球そのもののエネルギーを浴びていたので、むしろこうして体を動かしたい気分だった。

来る時にレンタカーを使ったのは、単にずっと飛行機に乗っていたことでやや疲れ気味だったからというのもあるし、悠里にいろいろな経験をさせるためでもある。

でも今はこういう経験もということだ。

そして、完全に日が昇る前に二人はホテルへと戻っていた。

セルゲイとのフィールドワークは、大体、この感じてある。

生き物に興味がなければさすがに辛いだろう。だから安和アンナは連れて行かない。

なお、睡眠の方は、飛行機の中で数時間眠ったことで十分取れていた。が、ほぼ人工物に囲まれて密閉された状態での長時間移動は、吸血鬼にとってはあまり楽しいものでもないらしい。

それこそ、家族と一緒に楽しい時間を共有でもしていなければ。

家族の存在によって気が紛れるというのもある。

そういう意味でセルゲイにとってもミハエル達が同行してくれるのはありがたいのだった。



「ただいま」

「ただいま~」

ミハエルと安和が待つ部屋に帰ると、

「おかえり」

「おかえり~♡」

と二人が迎えてくれる。

「どうだった?」

安和がセルゲイに尋ねる。

「美しい蝶と出会えましたよ。姫。これも姫のおかげです」

そう言いながらセルゲイはスケッチブックを取り出し、彼女に昨夜のスケッチを見せた。

「わあ♡」

明るいところで見るとなお一層、生き生きとした絵だった。まさに生命力そのものが描かれている気がする。

こうして安和が絵に見惚れている間に、セルゲイと悠里はお風呂に入り、さっぱりとした。

お風呂から上がると、

「おはよう♡」

またビデオ通話でアオと椿つばきに会う。

「見て見て、ママ、椿、これ、セルゲイの絵…!」

「おお~っ!」

安和が自慢げにセルゲイの絵を見せると、アオと椿が感嘆の声を上げた。

ただ、椿は今日は学校なので、あまりゆっくりはしていられない。しかもアオも一晩中仕事をしたから、椿を送り出した後は寝ることになる。

「じゃ、いってらっしゃ~い♡」

学校に行く椿を見送り、

「おやすみ~♡」

寝るために寝室に向かうアオを見送った後、少しゆっくりし、ルームサービスで食事を頼み、四人で軽く食事をとり、それから寝たのだった。

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