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観察

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オオルリオビアゲハの姿をスケッチした二人は、そのまま蝶の観察を続けることとなった。しかし蝶はただ寝ているだけで、二時間、三時間と時間が経っても何の変化もない。

それでも、セルゲイと悠里ユーリは不平を零すこともなく、その場の植物と同化するように気配を経ちながらただ蝶を眺めていた。

時折、僅かに動くもののやはり大きな変化はない。

けれど、わざと蝶を起こすようなこともしない。それでは<自然な生態>の観察にならないとセルゲイは考えるからだ。

幸い、自分には時間がある。このまま蝶の一生に付き合ったって惜しくないほどには。

それを、悠里にも学んでもらう。

「悠里、僕達には時間がある。たとえすぐには上手くいかなくても、上手くいくまで方法を探し続けるくらいの時間はね。だから焦らなくていい」

生い茂る木々の僅かな隙間から差し込む月明かりの下、セルゲイと悠里は地面に腰を下ろし静かに佇む。視線は蝶に向けつつも、同時に全身の感覚を研ぎ澄ませてその空間そのものを感じた。蝶がいる環境を理解するためだ。

木々の匂い、草の匂い、土の匂い、空気の匂い。

街からはそう離れていないので排気ガスの臭いなども届いてくるものの、それも含めての<環境>だ。

セルゲイを真似て悠里もゆっくりと呼吸をし、この空間そのものと一体化する。

すると、悠里の脳内に、木漏れ日の中でひらひらと飛び交う蝶の姿が浮かび上がった。

人間の開発により生息範囲を狭められつつも新しい環境に適応し命を繋いでいこうとする蝶の力が見えた気がした。

それがまた心地好い。

『いつまででもこうしてられそうだ……』

そんなことも思う。地面から必要なものが自身の中に流れ込んでくる気さえした。

事実、吸血鬼はそういう形でエネルギーを得ることもできる。ただしこの場合は、

『エネルギーとして蓄える』

のではなく、あくまで、

『地球自体がもつエネルギーそのものを自身の力として利用する』

という感じではあるが。

これができるから、吸血鬼は、その体が蓄えることができるもの以上の途方もない力を発揮することができると言えるだろう。

それが判明したことも、吸血鬼が<吸血>に依存せずに済んでいる理由の一つだった。かつては吸血によってのみ大きな力を発揮できると信じられていたのを否定することができたからだ。

吸血はあくまで『きっかけ』でしかない。他の生き物の血、特に人間のそれを摂取することで自身の力を効率的に活用できるという、ある意味、人間にとっての<ビタミンの一種>のような働きをしていることが確認されている。

欠乏すると身体の維持に支障をきたすが、だからといって吸血した対象を失血死させるほどは必要なかったのである。故に現在では輸血パックのそれを摂取する者も多かったのだった。

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