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単純な話

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「満足していただけましたか? 姫」

超特大パフェを食べ切ってレストランを出たセルゲイは、その腕に抱いた安和アンナに穏やかに問い掛けていた。

すると安和は、

「満足はしてないけど、まあ、今回は許したげる」

少し不満げではあったものの、セルゲイが昆虫の生態調査に行くことを認めてくれた。

安和も分かってはいた。それがセルゲイの仕事である以上、自分の我儘で邪魔をしてはいけないことは。けれど、だからといってすぐに納得できるほど単純ではないのは、人間もダンピールも変わらない。

セルゲイが、ミハエルが、アオが、そういう部分を疎かにしないからこそ、ダンピールである安和が精神的に穏やかでいられるのだと言える。

人間でも、大人に反発する子供の様子を客観的に冷静によく見てみれば分かるはずだ。そういう子供の周囲の大人達がいかに子供を見下し軽んじ身勝手に接しているか。

『そんなことない!』とムキになって否定するとしたら、それは自身の姿を客観視するのが怖いから認めたくないという甘えだろう。自身を客観視できる人間は、自分が完璧ではないことを、常に間違いのない振る舞いができるわけじゃないことを知っているはずだから。

自分が完璧じゃないことを認められない、完璧じゃないことを指摘されたらムキになったりキレたりする大人の姿を、<聞き分けのない子供>は真似をしているだけだと思われる。

子供の振る舞いは、その子供の身近な大人の振る舞いをコピーしたものだ。

自分より弱い相手に暴力的に振る舞う大人を見習った子供は、自分より弱い相手には暴力的に振る舞い、

体裁ばかりを気にして余所行きの顔は<いい人>を演じつつ裏に回れば悪辣な本性を隠さない大人を見習った子供は、<いい子の仮面>を被りつつ他人を虐げたりもする。

だからセルゲイもミハエルもアオも、子供達を蔑ろにしない。見下すこともしないし、軽んじることもない。一個の人格として接する。そうすることで、

『相手を敬い、一個の人格として認める』

という接し方を学んできた。だから吸血鬼や人間を敵対視する必要がなかった。自分が接してもらったやり方を、自分も他人に対して行うことができた。

ダンピールにも知性や理性はあるのだから、客観的に冷静に考えさえすればこれは当然の帰結だった。

子供は未熟なのだから我儘な部分があっても当然である。それを、周囲の大人達の振る舞いを学び取ることで自分を律する方法を身に付けていく。

大人が、大人という立場に甘えて横柄に我儘に振る舞えば、子供も当然、そういうものだと学び取る。

突き詰めてみれば単純な話だった。

もっとも、人間は自分自身にはついつい甘くなりがちなので、その<単純な話>を実行できないことが多いのだけれど。

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