26 / 571
<事実>に向き合う勇気
しおりを挟む
『ミハエルは僕の研究を立証してくれた。その恩を返したい』
セルゲイがミハエル達を<自分の子供>として対外的には振舞うのは、そういう理由もあった。悠里と安和が生まれた時には、
『自分の説が立証できるに違いない』
正直、そういう下心があったことも否めない。
けれど、今ではもう、そういうことは抜きにして、ただ、ミハエルの子供達と一緒にいることが楽しかった。子供達との時間が癒しだった。
もりもりと超特大パフェを胃に収めていく安和を見守りながら、セルゲイは思う。
『<常識>というのは時に恐ろしいものだ……実際には正しくなくても誰もが『そういうもの』と思い込み、結果としてその常識に当てはまるように振舞ってしまう……
過去の我々吸血鬼やダンピールによってもたらされた悲劇は、その常識に囚われ物事を客観視しようとしなかったことによって生じたものだ。
我々吸血鬼は人間を襲いその血を糧として喰らい、あるいは眷属として従えるもの、という常識を盲信していたことによって引き起こされてきた……
でも、生物学的に見れば、直接人間から吸血するのは必須ではなかったし、吸血することで人間が眷属になってしまうというのも必ず引き起こされることではなかった。
いずれも、現実から目を背けていたがゆえにもたらされた悲劇だった。
僕達はその事実を突き止めてしまった以上、『昔はそれが常識だったから』と甘えることは許されない。我々吸血鬼は、理性を持たない怪物ではない。それはダンピールも同じ。
知的生命体は、<事実>に向き合う勇気を持たなければならない。
確かに、自分達が<常識>として信じてきたことを疑うのは恐ろしいかもしれない。
けれど、事実と向き合うことをせず妄執に囚われた知的生命体は、この世界にとって危険な存在でもある。
人間も、自らを<霊長類>と称し特別な存在と長らく信じてきたけれど、それが思い上がりに過ぎないと気付きつつある。
僕達吸血鬼が、人間を、自分達よりも劣っている、<非力で下等で愚かな家畜>のように見下してきたことを過ちだったと気付いたように。
事実を事実として認めない臆病者は、自身の弱さを他人に転嫁することで見せかけの安寧を得ようとする。精神の安定を図ろうとする。
けれどそうやって不幸を押し付けられた方も、当然納得はしない。自分が押し付けられた不幸を何らかの形で購おうとする。これが不幸の連鎖を生む。
この事実に目を瞑ることもまた甘えだと、僕は思う。
誰もが現実と向き合えるわけじゃない、と甘えるなら、他人が甘えることも許さないとおかしい。
自分だけが甘えられると考えるのは、もはや怪物と同じだと思う……』
セルゲイがミハエル達を<自分の子供>として対外的には振舞うのは、そういう理由もあった。悠里と安和が生まれた時には、
『自分の説が立証できるに違いない』
正直、そういう下心があったことも否めない。
けれど、今ではもう、そういうことは抜きにして、ただ、ミハエルの子供達と一緒にいることが楽しかった。子供達との時間が癒しだった。
もりもりと超特大パフェを胃に収めていく安和を見守りながら、セルゲイは思う。
『<常識>というのは時に恐ろしいものだ……実際には正しくなくても誰もが『そういうもの』と思い込み、結果としてその常識に当てはまるように振舞ってしまう……
過去の我々吸血鬼やダンピールによってもたらされた悲劇は、その常識に囚われ物事を客観視しようとしなかったことによって生じたものだ。
我々吸血鬼は人間を襲いその血を糧として喰らい、あるいは眷属として従えるもの、という常識を盲信していたことによって引き起こされてきた……
でも、生物学的に見れば、直接人間から吸血するのは必須ではなかったし、吸血することで人間が眷属になってしまうというのも必ず引き起こされることではなかった。
いずれも、現実から目を背けていたがゆえにもたらされた悲劇だった。
僕達はその事実を突き止めてしまった以上、『昔はそれが常識だったから』と甘えることは許されない。我々吸血鬼は、理性を持たない怪物ではない。それはダンピールも同じ。
知的生命体は、<事実>に向き合う勇気を持たなければならない。
確かに、自分達が<常識>として信じてきたことを疑うのは恐ろしいかもしれない。
けれど、事実と向き合うことをせず妄執に囚われた知的生命体は、この世界にとって危険な存在でもある。
人間も、自らを<霊長類>と称し特別な存在と長らく信じてきたけれど、それが思い上がりに過ぎないと気付きつつある。
僕達吸血鬼が、人間を、自分達よりも劣っている、<非力で下等で愚かな家畜>のように見下してきたことを過ちだったと気付いたように。
事実を事実として認めない臆病者は、自身の弱さを他人に転嫁することで見せかけの安寧を得ようとする。精神の安定を図ろうとする。
けれどそうやって不幸を押し付けられた方も、当然納得はしない。自分が押し付けられた不幸を何らかの形で購おうとする。これが不幸の連鎖を生む。
この事実に目を瞑ることもまた甘えだと、僕は思う。
誰もが現実と向き合えるわけじゃない、と甘えるなら、他人が甘えることも許さないとおかしい。
自分だけが甘えられると考えるのは、もはや怪物と同じだと思う……』
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
星降る夜に神様とまさかの女子会をしました
あさの紅茶
キャラ文芸
中学の同級生と偶然再会して、勢いのままお付き合いを始めたけれど、最近ほんとすれ違いばかり
専門学校を卒業して社会人になった私
望月 葵 モチヅキ アオイ (21)
社会人になってすっかり学生気分の抜けた私と、まだまだ学生気分の彼
久しぶりのデートでケンカして、真っ暗な山奥に置き去りにするとか、マジありえない
路頭に迷う私に手を差しのべてくれたのは、綺麗な山の神様だった
そして…
なぜか神様と女子会をすることになりました
どういうこと?!
**********
このお話は、他のサイトにも掲載しています
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~
Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。
婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。
そんな日々でも唯一の希望があった。
「必ず迎えに行く!」
大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。
私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。
そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて…
※設定はゆるいです
※小説家になろう様にも掲載しています
ギリギリセーフ(?)な配信活動~アーカイブが残らなかったらごめんなさい~
ありきた
キャラ文芸
Vtuberとして活動中の一角ユニコは、同期にして最愛の恋人である闇神ミミと同棲生活を送っている。
日々楽しく配信活動を行う中、たまにエッチな発言が飛び出てしまうことも……。
カクヨム、ノベルアップ+、小説家になろうにも投稿しています。
異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。
彩世幻夜
恋愛
エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。
壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。
もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。
これはそんな平穏(……?)な日常の物語。
2021/02/27 完結
陽香は三人の兄と幸せに暮らしています
志月さら
キャラ文芸
血の繋がらない兄妹×おもらし×ちょっとご飯ものなホームドラマ
藤本陽香(ふじもと はるか)は高校生になったばかりの女の子。
三人の兄と一緒に暮らしている。
一番上の兄、泉(いずみ)は温厚な性格で料理上手。いつも優しい。
二番目の兄、昴(すばる)は寡黙で生真面目だけど実は一番妹に甘い。
三番目の兄、明(あきら)とは同い年で一番の仲良し。
三人兄弟と、とあるコンプレックスを抱えた妹の、少しだけ歪だけれど心温まる家族のお話。
※この作品はカクヨムにも掲載しています。
幼馴染はとても病院嫌い!
ならくま。くん
キャラ文芸
三人は生まれた時からずっと一緒。
虹葉琉衣(にじは るい)はとても臆病で見た目が女の子っぽい整形外科医。口調も女の子っぽいので2人に女の子扱いされる。病院がマジで嫌い。ただ仕事モードに入るとてきぱき働く。病弱で持病を持っていてでもその薬がすごく苦手
氷川蓮(ひかわ れん)は琉衣の主治医。とてもイケメンで優しい小児科医。けっこうSなので幼馴染の反応を楽しみにしている。ただあまりにも琉衣がごねるととても怒る。
佐久間彩斗(さくま あやと)は小児科の看護師をしている優しい仕事ができるイケメン。琉衣のことを子供扱いする。二人と幼馴染。
病院の院長が蓮でこの病院には整形外科と小児科しかない
家は病院とつながっている。
ハードボイルドJK
月暈シボ
キャラ文芸
近未来を舞台にした学園で、ハードボイルドなヒロインと謎を追う日常風学園ミステリーです。
転入してまだ間もない主人公の高遠ユウジは特別校舎での授業を終えて本校舎に戻る途中、下駄箱前で立ち尽くすクラスメイトの麻峰レイに遭遇する。
レイは同じクラスでありながらも、その完璧に近い美貌と近寄りがたいクールな雰囲気によってユウジは自分とは縁がないと思っていた人物だった。
靴が紛失し立ち往生していたレイを助けたユウジは翌日、彼女から昨日の礼と靴の盗難事件が多発していることを聞かされる。
レイは既に盗難事件について独自の調査を開始しており、自分を含めた被害者の生徒はいずれも同じ寮の女子生徒であることを突きとめていた。
そしてユウジは、レイからこの事件を一緒に解決しようと誘われる。好奇心からと、レイのような美少女と仲良くなるチャンスを拒む理由はないユウジはその申し出を受ける。
このようにしてユウジとレイはバディを組むと、事件と学園の謎に迫るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる