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私も愛してるよ~♡

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ホテル内のレストランにスイーツを食べに行ったセルゲイと安和アンナを見送ったミハエルと悠里ユーリは、バッグからタブレットを取り出し、それをホテルのWi-Fiに接続した。

なおそのタブレットは、公共Wi-Fiなどに繋いだり、引ったくりなどの犯罪に遭遇したりしたときに敢えて無理に奪い返したりしないという、いわば<捨てタブレット>とでも言うべきものだった。個人情報も入れていない、メールアドレスやメッセージアプリなどもすべていわゆる<捨てアカウント>である。

さまざまな国や地域を渡り歩いたことのあるミハエルならでは知恵であり、それについては悠里や安和にも学んでもらっていた。

けれど同時に、その捨てアカウントで他人を攻撃したりということもしない。親がそんなことをしていれば子供が真似るからだ。捨てアカウントを使うのは、あくまで自分や家族を他人の悪意から守るため。他人を攻撃するためではない。

そういう<ネットリテラシー>と称されるものについても、ミハエルはしっかりと子供達に伝えていた。これも親の役目であると考えて。

とまあそれはさて置いて、タブレットに入れたメッセージアプリを使って、さっそく、日本に残してきたアオと椿つばきにメッセージを送る。

『ホテルにチェックインしたよ』

するとすかさず、ビデオ通話の通知が返ってくる。

「ミハエル~…!」

真っ先に映ったのは、画面いっぱいのアオの顔だった。

「心配してたよミハエル~!」

向こうは、仕事用のそれとは別の、メッセージアプリ用のノートパソコンのはずだが、それにしがみつかんばかりの様子に、ミハエルは頬を緩めていた。相変わらずの甘えっこぶりだ。

「ごめんね、アオ。愛してる」

ミハエルが笑顔で返すと、

「私も愛してるよ~♡ む~っ」

アオが満面の笑みでキスをねだるように唇を画面に近付けた。

「って! ママじゃま!」

そのアオの頭を押しのけながら、椿が画面に割り込んでくる。

「あれぇ、ミハエルぅ~!」

と、ここまでがいつもの前置きだった。

「あはは♡ そっちも無事だね」

ミハエルが言うと、椿が、

「うん、あーくんと恵莉花えりか姉ぇと秋生あきお兄ぃが来てくれてるから」

笑顔で応えた。その椿の後ろで、あきらと恵莉花と秋生も笑顔で小さく手を振っている。

その光景にミハエルも安心していた。すると、チャイムの音が聞こえて、

「あ、は~い」

アオがインターホンに出る様子が画面の端に映る。そうして現れたのは、さくらだった。

「あ、ミハエル達もジャカルタに着いたんですね?」

そう言いながら画面に近付いてきたさくらに、

「やあ、さくら。またアオと椿をよろしくお願いするよ」

ミハエルが笑顔を向けたのだった。

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