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二人の母親

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「また母さんに原稿をボツにされたんだね。ごめん」

あきら恵莉花えりか秋生あきおを迎えてお茶にしていた時、秋生が不意にアオにそう言った。それはまるで家族に対する話し方だった。

「ああ、いいのいいの。それがさくらの仕事だから。そこで甘い顔をして商品にもならないものを出しちゃったら結果としてダメージをこうむるのはこっちだからね。だからさくらには感謝してる。

それに今は、商用として発表できなくても、発表できる場はあるしさ。

実際、ボツになった原稿をWebで公開した時の反応とか見てると、さくらの目は確かだって分かるよ。

私達は<プロ>なんだ。作り出すものは<作品>であると同時に<商品>でもある。それが分かってないと<プロ>ではいられないんだろうな。

今の時代、創作者として作品を世に出したいだけなら、公開できる場はいくつもある。私自身、<商業プロ>としてデビューする前は、いわば<同人プロ>みたいな形で生活もできてた。

単に自分の拘りを貫きたいなら、<同人プロ>みたいな生き方もあるよ。だけど、同人であっても実際にそれだけで生活できるようになるのは、ある意味では<選ばれた人>だ。誰でもそうなれるわけじゃない。それも事実なんだよね」

そう応えたアオのそれは、人生の先達としての言葉だった。<創作者>として作品作りには拘りつつも、<プロ作家>として考えないといけない部分も現実としてあるというのを、子供達にきちんと伝えていくという、<親としての役目>もわきまえている。

人生は何でもかんでも自分の思い通りになるわけではない。感情のままに生きていける人間はいない。時には自分を抑え、自らの主義主張と妥協してでも結果としてよりよいものを目指す必要もあるというのを教え諭していくのが親の役目だと知っていた。

何しろ、何でもかんでも自分の思い通りになるのが正しいと考えている人間がどんな人生を送っているのかをよく知っているし。

だからそういう面でも、アオは、洸、恵莉花、秋生の<親>だと言える。

実際、アオとさくらは、作家と担当編集という以上に、実の家族のような間柄である。子供達にとっては、<母親>が二人いるようなものだった。特に洸は、ウェアウルフだったことで保育園にも通えず、さくらが仕事に行っている間はアオの家で面倒を見てもらっていた。

もっとも、アオは仕事があったので、実際に面倒を見ていたのはほとんどミハエルだったけれど。

それでも洸はアオのことを実の母親のように慕っている。書類上の母親であるさくらとも血は繋がっていないので、感覚的には本当に二人とも母親なのだった。

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