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おやすみなさ~い♡

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悠里ユーリ椿つばき、ぎゅ~っ♡」

アニメがCMに入ったところで、アオはそう言って二人をぎゅうっと抱き締めた。

「ん~♡」

「んふふふ♡」

すると悠里と椿も、嬉しそうにアオの頬に顔を寄せる。

それを見た安和アンナも、

「パパ~♡ 私も私も~♡」

甘えるようにミハエルの胸に頬を寄せた。それに応えて、

「ぎゅ~っ♡」

ミハエルも安和を抱き締めてくれた。

とても仲のいい、あたたかい家庭の光景がそこにあった。

そうして家族の団欒を満喫した後、

「じゃ、そろそろ寝ようか」

ミハエルが椿に声を掛けた。

「は~い♡」

椿も素直に応える。彼女は普通の人間の十歳の子供なので、夜の九時過ぎには寝ることにしていた。彼女を寝かしつけるのは、ミハエルの役目だった。

「おやすみなさ~い♡」

「はい、おやすみ♡」

「おやすみ~♡」

手を振りながら挨拶する椿に、アオが手を振り、悠里と安和が声を揃えて応えてくれた。

アオはこれからまた仕事だし、悠里と安和はダンピールなので夜行性だしで、寝るのは椿だけだった。

だけどミハエルがちゃんと彼女と一緒に寝てくれるので、別に不満はなかった。ずっとそうしてきたから疑問もない。

確かに椿一人だけで寝るように言われれば疎外感も感じてしまうかもしれないところを、ミハエルが一緒に寝ることで不安もなく安心して眠ることができた。

吸血鬼であるミハエルも本来は夜が本番だけれども、睡眠そのものが一日に数回仮眠を取るだけで十分なので、椿と一緒に寝て、二時間ほど仮眠を取るという形にしている。

テレビを視たいとか遊びたいとか、そんな理由で子供を一人にはしない。

ちゃんと満たされるまで傍にいる。

なにしろ、自分の勝手でこの世に送り出してしまったのだから。

『一人で寝るようにさせないと自立心が芽生えない』

そのようなことを言う者もいるものの、ミハエルは自らの豊富な経験からその説については懐疑的だった。

「親から引き離された子供は、その寂しさを我慢させられることに慣れたりはするかもしれないけど、そうして満たされなかった部分をどこかで補おうとするんだよ。親以外の誰かに依存したりしてね」

実際の事例を見てきたからこそそう思う。

またアオも、泣いても拗ねても一人で寝かされた経験から、

「あれって<自立心>って言うより、親への<不信感><反発心>ってだけだったなあ……」

としみじみと言う。

だから悠里と安和についても、朝、同じようにしてミハエルが一緒に寝る。

悠里と安和はまだ吸血鬼としても子供なので、人間の子供よりは睡眠時間は短いもののそれでも一度に六時間くらいは寝ることになる。

ダンピールの悠里と安和、人間の椿、それぞれに合わせた接し方をしっかりと確立していたのだった。

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