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そんな愚かな時期を経験として経たからこそ

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 そうして迎えた二年の終業式。羅美にとっては本当に無味乾燥な二年間だったようだ。これでおさらばだというのに、まったく平然としている。世間的にはここでなんかセンチメンタルになった方がウケるのかもしれないが、実際はこんなもんだってのが分かる。俺自身、高校の頃のことなんざ別に懐かしくさえない。自分がこれまでの人生で最も<馬鹿>だった時期だしな。
 とは言え、そんな愚かな時期を経験として経たからこそ今の俺があるのも事実だから、<無意味>だったとは思わないさ。加えて、俺の人生に大きな影響を与えた教師と出逢ったのも三年の三学期だったわけだし。それまでは話もしたことのなかったその教師との面談でいろんなことを話し合ったのがきっかけだったしな。
 でも同時に、だからこそ分かるんだよ。経験を経験として活かせるようになるには、そのための素地が必要だってことにな。
『人は傷付くことで優しくなれる』
 だとかよく聞いたが、それだけじゃ言葉が足りないというのが俺の実感だ。
『誰かから労わってもらい、他の誰かを労わるにはどうすればいいのかきちんと手本を示してもらわないと、傷付けば傷付いただけ他者や世の中を憎むようになるだけだ』
 ってのが実際のところだろうな。俺だって結局、周りの人間になんだかんだと支えてもらえたから<ファッションヤンキー>程度で済んでたんだと思うしよ。
 俺の学校にもいた<ガチのワル>は皆、マジもんのロクでもない家庭で育った奴らだったし、『痛みを知らないから他者を傷付けられる』んじゃなくて、
『痛みを知っているからこそ、それがどれだけ人間の心を的確に折るかよ~く知っている』
 って奴らだったしな。本人が、幼い頃に大人から徹底的に心を折られてきたから、何をどうすれば心を折ることができるのか、身をもって知ってるような連中だったよ。
 そいつらに比べたら俺のやってたことなんて、本当に甘っちょろい<ごっこ遊び>だったと思う。そんな奴らを間近で見てきたからこそ、俺は自分の子供にそうなってほしくないんだよ。だから俺は、子供を暴力で支配しない。ように心掛けてるんだ。羅美と初めて会った時にはさすがにあんまりにもあんまりな様子にキレたりもしたが、そういう自分を正当化するつもりもない。
 己の行いを正当化する大人の様子を見て自分がどう感じるか考えてみればこそだ。
「それじゃ、行ってくる。羅美も気を付けてな」
 朝、先に仕事に出る俺を見送ってくれる羅美にそう手を振った。
「分かってるよ。オッサンこそ気を付けなよ」

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