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子育てなんてできるはずがない

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 栗原のような役割の人間は、それなりにいろんなところにいるもんだと思う。やってる本人が望んでやってるのかどうかは別にしてな。
 ただ、そういう人間がいても、全部を一人で背負うことはできないだろうから、お役所仕事で済まされてる事案も多いんだろう。だが幸いにも、俺達は栗原のような奴を引っ張り出すことに成功したわけだ。
「それでは、羅美さんの出産までのサポートと、羅美さんのお子さんのサポートについては、お約束します。それで、実際に養育なさるのは、古隈さんということでよろしいですね?」
 丁寧なのは丁寧なものの、明らかにこっちを信用してないのを隠す気もなさそうな<慇懃無礼>な態度で問い掛けてくる栗原に、俺も、
「ああ、そういうことだ。一応これでも、<一児の父>なんでね」
 と返したが、これは完全に<はったり>だ。実際には前妻に任せっきりで俺はほとんど何もしてないし、おむつの替え方も、一応知ってるってだけでぜんぜん身に付いちゃいない。
「なるほど。結構です」
 栗原も承諾したようなことは言うが、やっぱり明らかに信用してないよな。
「では、ちょうど今度の土曜日に児童館で<父親教室>が行われますので、そちらに参加していただければ幸いです」
『育児の経験がある』ならわざわざ今さら父親教室なんかに参加する必要もないだろうにそれを希望するというのはどういうことかというのも見透かされてそうだ。
 だからだろうな。栗原は問い掛けてきた。
「古隈さん。あなたは仕事と育児と、どちらが大変だと思いますか……?」
「え…? それは……」
 さすがに不意を突かれて口ごもった俺に、続けて語り掛けてくる。
「世の中には、<子供を育てること>より<仕事>の方が大変だと考える人がたくさんいます。でも、だとしたらおかしいと思いませんか? どうして仕事よりも楽で大変じゃない子育てを『できるはずがない』と考えるのでしょう? 中学校しか卒業していない方でも仕事をしてらっしゃる方はたくさんいらっしゃいますよ? それなのに『子育てなんてできるはずがない』とおっしゃる方がいらっしゃるのはなぜですか?
 <起業>という形で新たに仕事を作り出す方もたくさんいらっしゃいます。それができるのに、どうして『新しい命を育てることはできない』と言うのでしょう? 仕事より楽で簡単なのではないのですか? <子育て>なんて。
 しかも、『子供を生んだらその子供が不幸になる。だからダメだ』とおっしゃる方もいらっしゃいます。でも、起業してそれが上手くいけばいいですけど失敗する例も少なからずありますよね? 失敗してたくさんの人の人生を狂わせることさえある。なのにどうしてそれが許されて、『子供を生み育てる』ことが許されないんですか? 仕事よりも楽で簡単なはずですのに」

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