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ケバいメイクは

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 そうだ。それもすべてあいつの<作戦>かもしれない。そうも思う。そうやって情に訴えかけて俺に寄生するためのな。
 ただ同時に、そこまで頭の切れる奴なら、なにもこんなしみったれたオッサンを相手にしなくても、もっと桁違いの資産家でも引っ掛ければいいだろう。そういう奴の<愛人>にでもなって、自尊心を上手くくすぐってやって代わりに自分は贅沢三昧ってこともできそうな気がするんだよな。
 預金残高二千万なんて、まだまだ<庶民>レベルだろ。月収だって手取り二十二万程度だし。
 こんな俺に寄生して、あいつになんのメリットがある?
 そうも思うんだ。

 そんなこんなで家に帰ると、大虎は久しぶりにばっちりメイクを決めて料理していた。
「……化粧品代、ありがと……」
 俺に視線も向けずにそう口にする。昨日のことをまだ引きずってるんだろう。
 でもまあ、それは仕方ないと思う。こいつにとっての心の拠り所かもしれない実の父親をダシにしてあんな言い方したんじゃな。
「化粧品代、足りたか?」
 そう訊くと、
「ん……さすがにちょっと……」
 と言うから、
「じゃあまた、五千円渡しとく、それでも足りなかったらまた言え」
 財布から五千円を差し出すと、
「……ありがと……」
 やっぱり目を逸らしたまま応えて。で、俺はふと、頭にひらめくものがあって、
「念のため言っとくが、別に俺の前でも化粧しろって意味で金渡したんじゃないぞ? てか、俺の前では化粧なんかしなくていい。メンドクサイだろ。俺もお前のそのケバいメイクは好きじゃない。化粧品の臭いも嫌いだ」
 とも告げておいた。すると大虎は、
「…分かった……!」
 なんか少し声のトーンが高くなって。
 だからこいつ、本当は化粧なんか好きじゃないんだろうなとも思った。化粧することで自分を鼓舞しないとやってられないってだけで。
 そういや、前妻も割ときっつい印象になるようなメイクをしてたな。あれも結局は、<戦化粧>ってことだったんだろうな。家に帰ってメイクを落とすと本当にホッとした様子だったし。
 女って色々大変だな。
 そんなことも思う。
 で、二人で夕食を食べた後、大虎はすぐにメイクを落とした。そしてさっぱりした様子で炬燵に入ってきたのを見て、
「やっぱ俺、そっちのが好きだわ。お前、割と可愛い顔してんじゃねえか」
 正直な気持ちを口にする。
「え…? そうかな……? そんなのこれまで言われたことないけど」
 満更でもなさそうな表情で言う。だから俺は改めて、
「他の奴らのことなんか知るか。俺はそう思うってだけだ」
 言ってのけたのだった。

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