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日常編
墓標
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「アーシェスさん。お久しぶりです。お墓参りあんまり来れなくてごめんなさい。でも、ぜんぜん寂しくなさそうですね…」
その日ユウカは、一人でアーシェスの<お墓>に参っていた。もっとも、そこにあるのは墓と言っても実際にはただのモニュメントであり、本人は安置区域と呼ばれるデータ圧縮領域で、夫と共に目覚めることのない眠りについてるだけなのだが。
墓の前にはたくさんのお供え物で溢れ、アーシェスの人柄がしのばれた。彼女には子供こそいなかったが、エルダーとして面倒を見てきた者達が彼女にとっては子供のようなものだった。さしずめユウカは末っ子と言ったところだろう。
<書庫>で二百万年を生きたアーシェス・ヌェルーカシェルア。それがどれほどの時間だったのか、まだたった数十年しか生きていないユウカには分からない。だが、ユウカが思い出せる彼女の姿からは、とても幸せそうな様子しか窺えなかった。
ヒロキは、地球に残してきた想い人達をここから見送ることになるという。しかしそれさえ、二百万年も経てばどうなるのだろう……?
僅か数十年など、ほんの瞬きするかのような一瞬でしかないのだろうか?
それともやはり、数十年分の時間として感じられるのだろうか。
何となく日々が過ぎていく時間が早くなっていっているような気がしないでもないものの、正直、よく分からない。
アーシェスのように二百万年も生きた者は非常に少ないから、経験者も少ない。当然、その話を聞く機会も殆どない。アーシェス自身はそれについては詳しくは語ってくれなかった。
もっとも、語る必要もなかったのかもしれないが。
ユウカ自身は自分が何年生きることになるのか、何年生きようと思っているのか、今はまだ具体的には何も考えていない。ただ、多くの場合は一万年を待たずしてアーシェスと同じようにして眠りにつく。一番多いのは、千年前後だろうか。たいていはそれくらいで満足するからだろう。
自分がどうなるかは分からないけれど、満足するまでは生きたいと思った。その中で、もしかしたらヒロキと結ばれる時期もあるかもしれない。でもどんな生き方をしても、満足するまでは何度でもやり直せる。ここは、それができる世界なのだから。しかし、叶えられないこともある。
「…アーシェスさん。またあなたの声が聞きたいです…あなたのお話が聞きたいです…
でも、それはできないんですね。私の我儘であなたの眠りを妨げる訳にはいかないですもんね……
だけどやっぱり寂しいです……」
アーシェスの墓標の前で、ユウカは静かに涙を流したのだった。
その日ユウカは、一人でアーシェスの<お墓>に参っていた。もっとも、そこにあるのは墓と言っても実際にはただのモニュメントであり、本人は安置区域と呼ばれるデータ圧縮領域で、夫と共に目覚めることのない眠りについてるだけなのだが。
墓の前にはたくさんのお供え物で溢れ、アーシェスの人柄がしのばれた。彼女には子供こそいなかったが、エルダーとして面倒を見てきた者達が彼女にとっては子供のようなものだった。さしずめユウカは末っ子と言ったところだろう。
<書庫>で二百万年を生きたアーシェス・ヌェルーカシェルア。それがどれほどの時間だったのか、まだたった数十年しか生きていないユウカには分からない。だが、ユウカが思い出せる彼女の姿からは、とても幸せそうな様子しか窺えなかった。
ヒロキは、地球に残してきた想い人達をここから見送ることになるという。しかしそれさえ、二百万年も経てばどうなるのだろう……?
僅か数十年など、ほんの瞬きするかのような一瞬でしかないのだろうか?
それともやはり、数十年分の時間として感じられるのだろうか。
何となく日々が過ぎていく時間が早くなっていっているような気がしないでもないものの、正直、よく分からない。
アーシェスのように二百万年も生きた者は非常に少ないから、経験者も少ない。当然、その話を聞く機会も殆どない。アーシェス自身はそれについては詳しくは語ってくれなかった。
もっとも、語る必要もなかったのかもしれないが。
ユウカ自身は自分が何年生きることになるのか、何年生きようと思っているのか、今はまだ具体的には何も考えていない。ただ、多くの場合は一万年を待たずしてアーシェスと同じようにして眠りにつく。一番多いのは、千年前後だろうか。たいていはそれくらいで満足するからだろう。
自分がどうなるかは分からないけれど、満足するまでは生きたいと思った。その中で、もしかしたらヒロキと結ばれる時期もあるかもしれない。でもどんな生き方をしても、満足するまでは何度でもやり直せる。ここは、それができる世界なのだから。しかし、叶えられないこともある。
「…アーシェスさん。またあなたの声が聞きたいです…あなたのお話が聞きたいです…
でも、それはできないんですね。私の我儘であなたの眠りを妨げる訳にはいかないですもんね……
だけどやっぱり寂しいです……」
アーシェスの墓標の前で、ユウカは静かに涙を流したのだった。
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