上 下
164 / 205
日常編

人に懐かない厄介なペット

しおりを挟む
風の属性を嫌悪しているということはビヤーキーにとってもレルゼーは敵だったが、力の差は圧倒的だった。そんなレルゼーに逆らうなど、ハエが人間を持ち上げて飛ぼうとするよりも無謀なことだった。

それに元より、ここではいくら神話生物といえども人間を害することはできない。怪我をさせる程度のことはできても、命を奪うことは叶わない。だから人に懐かない厄介なペット程度の存在でしかなかった。

翌朝、そんなビヤーキーを引き連れて、レルゼーはユウカの部屋を訪れていた。

「わあ、思ってたよりもおっきいんだね…!」

ユウカは笑顔を浮かべながらも実際に目にするビヤーキーに驚きを隠せなかった。同時にすごく興奮もしていた。無理もない。ある意味では憧れ続けたものが今の目の前にあるのだから。

「触っても大丈夫かな?」

そう尋ねるのと同時に触りたくてうずうずしてしまってつい手を差し出してしまうユウカに、レルゼーは冷静に忠告する。

「触るのは構わない……でも、怪我をする覚悟は必要…」

本来なら怪我などでは済まない筈だが、その辺りはここが<書庫>だということで逆に怪我で済んでしまうということも表していた。とは言え、ユウカの方も思わず手を引っ込めて、

「あ、そ、そうか。そうだよね」

と残念そうに笑った。それでも、念願の神話生物の実物を前に、

「可愛い…」

などと呟いてしまうのは彼女ならではか。

そんなユウカとは対照的に、ガゼは少し引き気味だった。

無理もない。昆虫のような獣のような奇怪でグロテスクな<神話生物>はただの空想の産物ではなく、実際に存在する危険だという認識があったからである。それを前にしてさえ嬉しそうにしげしげと眺めるユウカのことは、

『こういうところは理解できないな~…』

口には出さなかったがついそんなことを考えてしまったりもする。

いくら好きな相手でも、やはり自分にとっては相容れない部分というものはあるということだろう。

人間関係とは、そういう部分といかに折り合うかということなのかもしれない。自分の都合や感性ばかりを優先し相手がそれを理解してくれることだけを願っていては、結局は誰からも受け入れてもらえない。表面上は合わせてもらえていてもその裏では、ということもよくある話ではないだろうか。

もっとも、たとえお互いに相手のすべてを受け入れていたとしても、時間の経過と共に続けられなくなるということも往々にしてある話だと思われる。そしてそれが修復できないようであれば、敢えて無理はせず距離を置くことも必要なのだろう。

『でも、私はユウカが好き……!』

ガゼの場合はそれがいつになるかは分からないが、少なくとも今は理解できないながらも受け入れたいとは思っていたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...