161 / 205
日常編
火の酒
しおりを挟む
ロックバンド<レルゼリーディヒア>は、火属性の邪神カハ=レルゼルブゥアをリーダーとして活動している、息の長い人気バンドである。
しかし、それぞれがあくまで一つの自己表現としてロックを選び、その感性が近いということでバンドという形をとっているだけで、決して<仲良しこよし>という訳ではなかった。かと言ってメンバー同士でいがみ合う訳でもない。むしろ、いがみ合う程もお互いのことを知らないと言った方がいいだろう。
だが、一度(ひとたび)ライブになると、それぞれの技術や音楽に対する想いをぶつけ合い、それがまるでジャズのセッションのように互いを高め合うという形となる。これもまた人気の理由の一つだと思われた。
ライブの後で打ち上げをしたりはするものの、そこでもやはり決して慣れ合う訳ではない。コアなファンの中にはそういうメンバー同士の関係性も承知の上で、
「あのヒリヒリとした緊張感がたまらないんだよね~♡」
という特殊な楽しみ方をしている者も少なくなかった。
「むしろ仲良しこよしバンドになっちゃったらつまらないよね」
と思ってさえいるようだ。
さりとて、その辺りのファンの思惑すら関知せず、今日もいい具合にぶつかり合った後、スタッフも交えて打ち上げが行われていた。
バンドのメンバーは前述したとおり決して仲がいい訳ではないが、それを支えるスタッフの関係は良好だった。メンバーも、スタッフとであれば打ち解けた雰囲気を見せる時もある。
リーダーのレルゼーを除いては。
レルゼーが邪神であることは誰もが知っている事実であり、それを今さらとやかく言う者はいないものの、やはり人間とはあまりにもかけ離れたその精神構造について行ける者は数少なく、バンドが所属している会社の社長とスタッフのごく一部くらいしか、会話らしい会話をした者はいなかった。
もっともそれ自体があらかじめ分かっていることであり、それを不満に感じているとか不快に思っているかという者も殆どいない。ただ、
「あ、レルゼーさん…どこへ……」
打ち上げの真っ最中に、ふい、と部屋を部屋を出ていくレルゼーを、若いスタッフが呼び止めようとする。しかし彼女は全く聞こえなかったかのようにそのまま歩き去ってしまった。
「あ……あの……」
おろおろと部屋とレルゼーが歩み去った方向を交互に見るそのスタッフに、ベテランスタッフが、
「気にすんな。あれがレルゼーさんの普通だよ。ほっときゃいい」
と笑いかけた。
このように、入ったばかりで不慣れなスタッフが変に気を回しすぎたりして勝手に思い詰めたりすることがたまにあるだけだ。
以上の点を踏まえた上で、今日もレルゼーは一人、いつもの邪神御用達のバーで<火の酒>とも呼ばれるハイ・ウォッカを口にしていた。
下手に人間が口にするとそれこそコップ一杯で急性アルコール中毒にもなりかねないほどの危険な酒である。しかも火気厳禁。取り扱いには酒類に関する販売免許の外に危険物取扱免許が必要という、もはや燃料用アルコールに等しいそれが、レルゼーのお気に入りなのだった。
しかし、それぞれがあくまで一つの自己表現としてロックを選び、その感性が近いということでバンドという形をとっているだけで、決して<仲良しこよし>という訳ではなかった。かと言ってメンバー同士でいがみ合う訳でもない。むしろ、いがみ合う程もお互いのことを知らないと言った方がいいだろう。
だが、一度(ひとたび)ライブになると、それぞれの技術や音楽に対する想いをぶつけ合い、それがまるでジャズのセッションのように互いを高め合うという形となる。これもまた人気の理由の一つだと思われた。
ライブの後で打ち上げをしたりはするものの、そこでもやはり決して慣れ合う訳ではない。コアなファンの中にはそういうメンバー同士の関係性も承知の上で、
「あのヒリヒリとした緊張感がたまらないんだよね~♡」
という特殊な楽しみ方をしている者も少なくなかった。
「むしろ仲良しこよしバンドになっちゃったらつまらないよね」
と思ってさえいるようだ。
さりとて、その辺りのファンの思惑すら関知せず、今日もいい具合にぶつかり合った後、スタッフも交えて打ち上げが行われていた。
バンドのメンバーは前述したとおり決して仲がいい訳ではないが、それを支えるスタッフの関係は良好だった。メンバーも、スタッフとであれば打ち解けた雰囲気を見せる時もある。
リーダーのレルゼーを除いては。
レルゼーが邪神であることは誰もが知っている事実であり、それを今さらとやかく言う者はいないものの、やはり人間とはあまりにもかけ離れたその精神構造について行ける者は数少なく、バンドが所属している会社の社長とスタッフのごく一部くらいしか、会話らしい会話をした者はいなかった。
もっともそれ自体があらかじめ分かっていることであり、それを不満に感じているとか不快に思っているかという者も殆どいない。ただ、
「あ、レルゼーさん…どこへ……」
打ち上げの真っ最中に、ふい、と部屋を部屋を出ていくレルゼーを、若いスタッフが呼び止めようとする。しかし彼女は全く聞こえなかったかのようにそのまま歩き去ってしまった。
「あ……あの……」
おろおろと部屋とレルゼーが歩み去った方向を交互に見るそのスタッフに、ベテランスタッフが、
「気にすんな。あれがレルゼーさんの普通だよ。ほっときゃいい」
と笑いかけた。
このように、入ったばかりで不慣れなスタッフが変に気を回しすぎたりして勝手に思い詰めたりすることがたまにあるだけだ。
以上の点を踏まえた上で、今日もレルゼーは一人、いつもの邪神御用達のバーで<火の酒>とも呼ばれるハイ・ウォッカを口にしていた。
下手に人間が口にするとそれこそコップ一杯で急性アルコール中毒にもなりかねないほどの危険な酒である。しかも火気厳禁。取り扱いには酒類に関する販売免許の外に危険物取扱免許が必要という、もはや燃料用アルコールに等しいそれが、レルゼーのお気に入りなのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-
haruhi8128
ファンタジー
受験を間近に控えた高3の正月。
過労により死んでしまった。
ところがある神様の手伝いがてら異世界に転生することに!?
とある商人のもとに生まれ変わったライヤは受験生時代に培った勉強法と、粘り強さを武器に王国でも屈指の人物へと成長する。
前世からの夢であった教師となるという夢を叶えたライヤだったが、周りは貴族出身のエリートばかりで平民であるライヤは煙たがられる。
そんな中、学生時代に築いた唯一のつながり、王国第一王女アンに振り回される日々を送る。
貴族出身のエリートしかいないS級の教師に命じられ、その中に第3王女もいたのだが生徒には舐められるばかり。
平民で、特別な才能もないライヤに彼らの教師が務まるのか……!?
努力型主人公を書いて見たくて挑戦してみました!
前作の「戦力より戦略。」よりは文章も見やすく、内容も統一できているのかなと感じます。
是非今後の励みにしたいのでお気に入り登録や感想もお願いします!
話ごとのちょっとしたものでも構いませんので!
当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
ど天然で超ドジなドアマットヒロインが斜め上の行動をしまくった結果
蓮
ファンタジー
アリスはルシヨン伯爵家の長女で両親から愛されて育った。しかし両親が事故で亡くなり叔父一家がルシヨン伯爵家にやって来た。叔父デュドネ、義叔母ジスレーヌ、義妹ユゲットから使用人のように扱われるようになったアリス。しかし彼女は何かと斜め上の行動をするので、逆に叔父達の方が疲れ切ってしまうのである。そしてその結果は……?
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
表紙に素敵なFAいただきました!
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる