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日常編

火の酒

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ロックバンド<レルゼリーディヒア>は、火属性の邪神カハ=レルゼルブゥアをリーダーとして活動している、息の長い人気バンドである。

しかし、それぞれがあくまで一つの自己表現としてロックを選び、その感性が近いということでバンドという形をとっているだけで、決して<仲良しこよし>という訳ではなかった。かと言ってメンバー同士でいがみ合う訳でもない。むしろ、いがみ合う程もお互いのことを知らないと言った方がいいだろう。

だが、一度(ひとたび)ライブになると、それぞれの技術や音楽に対する想いをぶつけ合い、それがまるでジャズのセッションのように互いを高め合うという形となる。これもまた人気の理由の一つだと思われた。

ライブの後で打ち上げをしたりはするものの、そこでもやはり決して慣れ合う訳ではない。コアなファンの中にはそういうメンバー同士の関係性も承知の上で、

「あのヒリヒリとした緊張感がたまらないんだよね~♡」

という特殊な楽しみ方をしている者も少なくなかった。

「むしろ仲良しこよしバンドになっちゃったらつまらないよね」

と思ってさえいるようだ。

さりとて、その辺りのファンの思惑すら関知せず、今日もいい具合にぶつかり合った後、スタッフも交えて打ち上げが行われていた。

バンドのメンバーは前述したとおり決して仲がいい訳ではないが、それを支えるスタッフの関係は良好だった。メンバーも、スタッフとであれば打ち解けた雰囲気を見せる時もある。

リーダーのレルゼーを除いては。

レルゼーが邪神であることは誰もが知っている事実であり、それを今さらとやかく言う者はいないものの、やはり人間とはあまりにもかけ離れたその精神構造について行ける者は数少なく、バンドが所属している会社の社長とスタッフのごく一部くらいしか、会話らしい会話をした者はいなかった。

もっともそれ自体があらかじめ分かっていることであり、それを不満に感じているとか不快に思っているかという者も殆どいない。ただ、

「あ、レルゼーさん…どこへ……」

打ち上げの真っ最中に、ふい、と部屋を部屋を出ていくレルゼーを、若いスタッフが呼び止めようとする。しかし彼女は全く聞こえなかったかのようにそのまま歩き去ってしまった。

「あ……あの……」

おろおろと部屋とレルゼーが歩み去った方向を交互に見るそのスタッフに、ベテランスタッフが、

「気にすんな。あれがレルゼーさんの普通だよ。ほっときゃいい」

と笑いかけた。

このように、入ったばかりで不慣れなスタッフが変に気を回しすぎたりして勝手に思い詰めたりすることがたまにあるだけだ。

以上の点を踏まえた上で、今日もレルゼーは一人、いつもの邪神御用達のバーで<火の酒>とも呼ばれるハイ・ウォッカを口にしていた。

下手に人間が口にするとそれこそコップ一杯で急性アルコール中毒にもなりかねないほどの危険な酒である。しかも火気厳禁。取り扱いには酒類に関する販売免許の外に危険物取扱免許が必要という、もはや燃料用アルコールに等しいそれが、レルゼーのお気に入りなのだった。

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