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牢獄の女怪
程遠い
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自身の命が終わるその日を迎えても、ミカはやはりいつもどおりに身支度を整えた。そこに、
「さあ、いよいよだぞ!」
どうやら担当者らしい中年男がいかにも横柄な態度で独房の扉の前に立ち、声を掛けてきた。
「ああ……そうだな……」
ルパードソン家の居城を改修した監獄では、フェンブレンやその前任者でさえここまでじゃなかったというその振る舞いに、ミカは思わず苦笑いを浮かべる。
するとその担当者は、カーッと顔を紅潮させて、
「何がおかしい! この魔女が!!」
警棒で鉄格子をガン!と殴りつけながら怒鳴った。そんなことで彼女が怯むはずもないことも知らず。
しかしミカはそれに対しても平然としていた。この程度に反応しても得るものは何もない。
なので取り敢えずは望みどおりに一切の表情を消し去り、冷淡な顔に戻して見せた。
もっとも、この担当者が本当に望んでいるのは、命乞いをして泣き叫ぶ姿なのだろうが。
しかし残念ながらそういう振る舞いはできそうにない。
「さすがは魔女。可愛げの欠片もねえな…っ!」
男はそう吐き捨てつつ、看守に扉を開けさせる。
その向こうには、何人もの兵士の姿。ミカをギロチン台にまで護送するための人員なのだろう。
さりとて、ミカ自身には抵抗する気などまったくないので、これはどちらかと言えば暴徒化した民衆がギロチンに掛ける前に彼女を殺してしまわないようにという意味合いのものかもしれない。
事実、監獄内でミカが馬車に乗せられる時にさえ、中が覗ける僅かな隙間に殺到した民衆が彼女の姿に気付くと、
「魔女だ!!」
「殺せ! 今すぐ殺せ!!」
異様な興奮と共に怒声を上げた。そしてミカを乗せた馬車が出てくると悟ると、監獄の出入り口に押し寄せようとする。
しかしそれは槍を構えた警備の兵士に阻まれ、近付けなかった。
「危ねえ!」
「押すな!!」
後ろから押されて危うく突き出された槍の切っ先に飛び込んでしまいそうになった者が慌てて声を上げる。
そんな中、馬車が出てくると、次々と石が投げつけられた。
それを見越して御者も馬も、プレートアーマーという、全身を覆う鎧を身に付けていたが、そちらにもガンガンと石が当たる。
なので、馬が怯えて暴れないように御者が制御するのも一苦労だったようだ。
プレートアーマーを装備した馬を繋いだ馬車が暴走などすればそれこそ大変なことになるというのに、興奮した民衆にはそこまで考えることができないらしい。
この様子だけを見ていると、まだまだミカが望んだ理性的な社会というものには程遠いという印象もあるものの、
『一朝一夕に変わってしまうものでもないからな……長い目で見なければいけないだろう……』
彼女自身、窓すら塞がれた馬車の中で、外の喧騒を感じつつ、自らにそう言い聞かせていたのだった。
「さあ、いよいよだぞ!」
どうやら担当者らしい中年男がいかにも横柄な態度で独房の扉の前に立ち、声を掛けてきた。
「ああ……そうだな……」
ルパードソン家の居城を改修した監獄では、フェンブレンやその前任者でさえここまでじゃなかったというその振る舞いに、ミカは思わず苦笑いを浮かべる。
するとその担当者は、カーッと顔を紅潮させて、
「何がおかしい! この魔女が!!」
警棒で鉄格子をガン!と殴りつけながら怒鳴った。そんなことで彼女が怯むはずもないことも知らず。
しかしミカはそれに対しても平然としていた。この程度に反応しても得るものは何もない。
なので取り敢えずは望みどおりに一切の表情を消し去り、冷淡な顔に戻して見せた。
もっとも、この担当者が本当に望んでいるのは、命乞いをして泣き叫ぶ姿なのだろうが。
しかし残念ながらそういう振る舞いはできそうにない。
「さすがは魔女。可愛げの欠片もねえな…っ!」
男はそう吐き捨てつつ、看守に扉を開けさせる。
その向こうには、何人もの兵士の姿。ミカをギロチン台にまで護送するための人員なのだろう。
さりとて、ミカ自身には抵抗する気などまったくないので、これはどちらかと言えば暴徒化した民衆がギロチンに掛ける前に彼女を殺してしまわないようにという意味合いのものかもしれない。
事実、監獄内でミカが馬車に乗せられる時にさえ、中が覗ける僅かな隙間に殺到した民衆が彼女の姿に気付くと、
「魔女だ!!」
「殺せ! 今すぐ殺せ!!」
異様な興奮と共に怒声を上げた。そしてミカを乗せた馬車が出てくると悟ると、監獄の出入り口に押し寄せようとする。
しかしそれは槍を構えた警備の兵士に阻まれ、近付けなかった。
「危ねえ!」
「押すな!!」
後ろから押されて危うく突き出された槍の切っ先に飛び込んでしまいそうになった者が慌てて声を上げる。
そんな中、馬車が出てくると、次々と石が投げつけられた。
それを見越して御者も馬も、プレートアーマーという、全身を覆う鎧を身に付けていたが、そちらにもガンガンと石が当たる。
なので、馬が怯えて暴れないように御者が制御するのも一苦労だったようだ。
プレートアーマーを装備した馬を繋いだ馬車が暴走などすればそれこそ大変なことになるというのに、興奮した民衆にはそこまで考えることができないらしい。
この様子だけを見ていると、まだまだミカが望んだ理性的な社会というものには程遠いという印象もあるものの、
『一朝一夕に変わってしまうものでもないからな……長い目で見なければいけないだろう……』
彼女自身、窓すら塞がれた馬車の中で、外の喧騒を感じつつ、自らにそう言い聞かせていたのだった。
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