94 / 112
牢獄の女怪
命のカウントダウン
しおりを挟む
<神聖皇国ティトゥアウィルキス>が辿った道や、<セヴェルハムト帝国>が辿った道は、
『人間がいかに過去に学ぶことのない愚かな生き物であるか』
ということの根拠にする者もいるだろう。しかしミカはそうは思わない。
『<神聖皇国ティトゥアウィルキス>が何故そうなったのか、<セヴェルハムト帝国>が何故こうなったのかを学べばそこから何かを得る者は必ず出てくる。だからこそ人間は技術を進歩させることができたのだ。
技術に比べて<心>というものは非常に難解で厄介で面倒なものであることは確かに事実。しかしそれだけですべてが決まるわけではないことを、私は知っている。
ヒロキ……あなたがその証拠だ。
七人もの人間を殺して死刑になった祖父を持ちながらも、あなたは、千人、万人の人を救える可能性を持った人に育った。
そんなあなたでも生きることができない時もあるほどこの世というのは残酷だけれど、同時に、<可能性>というものは常にあるということをあなたは私に教えてくれた。
私は、人間という生き物の可能性を捨てきることはできない……
たとえ、自らが悪魔となろうともな……』
独房の中でただ自らの命のカウントダウンを刻み続けながらも、彼女は思考することをやめなかった。
敢えて命の取捨選択を行うことで生き延びた者達の中に、次の百年を築き上げる者が現れる可能性は間違いなくある。それがなければ、人間などとっくの昔に滅びているはずだ。
一人、裸で、野に放り出されれば、数日と生き延びることもできないような脆弱な生き物でしかない人間が、ただ愚かなだけであるのなら。
その一方で、勝手に命を選んだこと自体はまぎれもない<罪>だ。罪は購われなければならない。
自身の治世の間に、帝国内とその周辺国で失われた、十数万もの命が、自分と胎の中の子の二人分の命で吊り合うはずは決してないが、十数万の犠牲の最後を締め括るという意味であれば、吊り合いを考える必要もあるまい。
それでもなお、人間達は一足飛びに<より良い世界>などというものを実現できないことは分かっている。文明がさらに発達し技術が進歩すればそれによって大きな武力を得、やがて世界規模の争いを始めるであろうことも彼女は知っている。
だが、『それでも』、なのだ。
それでも希望が潰えることがないと、彼女は知っている。
何の因果かそのための歯車として選ばれてしまったが、結果として自身の選択に後悔はない。自分のやり方に瑕疵があったのであれば、後の世の人間達がその過ちを教訓として活かせばいい。
後悔などしたところで、失われた命は戻りはしないのだから。
『人間がいかに過去に学ぶことのない愚かな生き物であるか』
ということの根拠にする者もいるだろう。しかしミカはそうは思わない。
『<神聖皇国ティトゥアウィルキス>が何故そうなったのか、<セヴェルハムト帝国>が何故こうなったのかを学べばそこから何かを得る者は必ず出てくる。だからこそ人間は技術を進歩させることができたのだ。
技術に比べて<心>というものは非常に難解で厄介で面倒なものであることは確かに事実。しかしそれだけですべてが決まるわけではないことを、私は知っている。
ヒロキ……あなたがその証拠だ。
七人もの人間を殺して死刑になった祖父を持ちながらも、あなたは、千人、万人の人を救える可能性を持った人に育った。
そんなあなたでも生きることができない時もあるほどこの世というのは残酷だけれど、同時に、<可能性>というものは常にあるということをあなたは私に教えてくれた。
私は、人間という生き物の可能性を捨てきることはできない……
たとえ、自らが悪魔となろうともな……』
独房の中でただ自らの命のカウントダウンを刻み続けながらも、彼女は思考することをやめなかった。
敢えて命の取捨選択を行うことで生き延びた者達の中に、次の百年を築き上げる者が現れる可能性は間違いなくある。それがなければ、人間などとっくの昔に滅びているはずだ。
一人、裸で、野に放り出されれば、数日と生き延びることもできないような脆弱な生き物でしかない人間が、ただ愚かなだけであるのなら。
その一方で、勝手に命を選んだこと自体はまぎれもない<罪>だ。罪は購われなければならない。
自身の治世の間に、帝国内とその周辺国で失われた、十数万もの命が、自分と胎の中の子の二人分の命で吊り合うはずは決してないが、十数万の犠牲の最後を締め括るという意味であれば、吊り合いを考える必要もあるまい。
それでもなお、人間達は一足飛びに<より良い世界>などというものを実現できないことは分かっている。文明がさらに発達し技術が進歩すればそれによって大きな武力を得、やがて世界規模の争いを始めるであろうことも彼女は知っている。
だが、『それでも』、なのだ。
それでも希望が潰えることがないと、彼女は知っている。
何の因果かそのための歯車として選ばれてしまったが、結果として自身の選択に後悔はない。自分のやり方に瑕疵があったのであれば、後の世の人間達がその過ちを教訓として活かせばいい。
後悔などしたところで、失われた命は戻りはしないのだから。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる