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牢獄の女怪

回復

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「……」

ミカは、ただしっかりと食事を採り、睡眠を取り、床に足を踏ん張ってぐーっと壁を押し、自身の筋肉の動きを確かめた。

けれど、僅かに体に力を入れるだけで息が上がってしまう。

これでは、男達の相手なんてしてられないだろう。

だからゆっくりと、しかし確実に全身の筋肉に負荷を掛ける。筋力や体力を取り戻すためだ。

男達の相手が自分の<役目>であるならば、それを果たすまで。

そう遠くないうちにギロチン台の露に消えるとしても、あくまで自分がこれまでギロチン台に送り込んできた人間達と自分も同じだということでしかない。

自分がギロチンに掛けられることで民衆の溜飲を下げ、人心を一つにまとめることになるのであれば、それこそが自分が果たすべき最後の役目だ。

そしてその時を迎える間にも役目があるのなら、手を抜くべきではない。

ミカは思う。

『彼を守れなかった私に価値などないのだ……

しかし、価値はなくとも使い道があるのなら、役に立つべきである。

それがこの世に生まれてきた者の務めだ……』

その<信念>が、彼女を支えていた。

戦争で見殺しにした者達にも、ギロチンで見世物のようにして殺された者にも、それぞれの使い道で役に立ってもらった。だから自分だけが逃れるわけにはいかない。

そのためにできる努力をする。

毎日風呂にも入り、自分の牢に戻れば入念に自分の体をチェックした。

できれば姿見の鏡が欲しいところだったが、おそらく、割った鏡で自害されたりしないようにだろう。鏡は支給されなかった。

だから、王宮でしていた手入れを思い出し、それを可能な限り再現することを目指す。

無駄毛については爪でつまんで一本一本抜き、手櫛ではあるが髪も整える。

そんな彼女の、まるで求道者が修行をするがごとき、執念さえ感じる姿に、身の回りの世話を仰せつかった元メイドの囚人は恐怖すら覚えたと言う。

なにしろ、取り憑かれたかのように<自分磨き>を行うのだ。それも、ただ男達の<玩具おもちゃ>にされるために。

その元メイドの囚人は、やや年齢がいっていていまいち人気がなかったことで、スケジュールに余裕があり、ミカの世話を任されることになったものの、それでも相手はさせられる。

そんな望まぬ仕事に就かされることが嫌で、男のために自分を磨くようなことはしたくもなかった。そのおかげもあってか、他の女達よりは相手をさせられる頻度も減った。

にも関わらず、この<元女王>は、男達の相手をするために自分を磨こうとしている。

『要するに淫売ってことか……』

自分に理解できないミカの振る舞いをそう解釈することで、元メイドの囚人は納得することにしたようだ。そうして、軽蔑した目でミカを見る。

しかしミカはそんな視線さえまるで意に介さずに努力を続け、一週間もすると、完全に<元通り>とまではいかないものの、明らかに見違えるほどとなったのだった。

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