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歴史上最も忌むべき悪女
肥沃
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トルスクレム王国への近道であるルベルソン領内の街道を使わないのは、貴族同士の勢力争いの影響だった。トルスクレム王国との交易のルートを抱える領地を治めているロイドニアという貴族は、自分達の発言権を高めるためにトルスクレム王国との交易に自分達の領地を通る道を使うように先々代の王に働きかけていたのである。
それにより自分達の領内に宿場を設け、交易のための商隊が休息を取る宿場町を整備し、収益を得ていたのだ。この既得権益によりロイドニア家はさらに力を得たのだが、現在のロイドニア家の人間達は祖先の努力の上に胡坐をかいてただ惰眠を貪るだけという有様だった。
「……」
改めてこの国の状況をウルフェンスの口から聞かされることになったミカの表情が凍り付いていく。
それでもこの時は、ただ、
「そうか……」
と呟いただけだったが。
その後、件のロイドニア家が治めるロイドニア領に入ると、なるほど確かに宿場町はルベルソン領のそれよりも整備され立派なものだった。働いている者達も勤勉でミカの表情が少し穏やかになる。
が、そこの領主であるロイドニア家の当主、ブルッス=ディディオ=ロイドニアに迎えられた時、ミカの表情がまた凍り付く。
なにしろ、
「これはこれは陛下、わざわざありがとうございます」
とリオポルドとミカを出迎えたブルッス=ディディオ=ロイドニアの姿は、<怠惰>という概念を形にしたかのような締まりのない貌にニヤニヤと下卑た笑みを浮かべているだけであったのだから。
自分では何の努力もせず、ただ先人達が築いた既得権益を貪るだけの寄生虫のごとき人間だというのが一見しただけで分かってしまう。
『どうしてこんな者がのさばっていられるのだ……?』
口には出さないもののミカの表情は、彼女のことを良く知っている人間には彼女がそう思っているであろうと推測させるには十分なほど冷たく硬いものだった。
もっとも、この時点ではそこまで察することができる人間は彼女の周りにいなかったが。ウルフェンスでさえ、『機嫌が悪いな』と感じる程度でしかなかった。
再びここで二日間の<休息>を取ることになり、領民へのお披露目が終わるとすぐ、ミカはウルフェンスと共に宿場町を抜け出し、領内を巡ってみた。
すると、街道沿いは確かに栄えているのだが、一歩それを外れると、農地の様子はルベルソン領のそれとは比べるべくもなかった。街道を通る交易の商隊が落とす金を当てにして、農業については二の次三の次になっていたのである。
「……」
馬を下りて、雑草が農作物よりも勢い良く茂っている農地に足を踏み入れ、雑草を掴み、引き抜いた。そして根に付いた土を見る。
それはほどよい粘りを持った、多少でも知識のある人間が見ればすぐ分かるほどに肥沃な土だった。もっとも、だからこそ大して手を入れなくてもそれなりの実りが得られるのだろう。
ここの農民達はそれに甘えて畑よりも宿場町での仕事に精を出しているのは明白なのだった。
それにより自分達の領内に宿場を設け、交易のための商隊が休息を取る宿場町を整備し、収益を得ていたのだ。この既得権益によりロイドニア家はさらに力を得たのだが、現在のロイドニア家の人間達は祖先の努力の上に胡坐をかいてただ惰眠を貪るだけという有様だった。
「……」
改めてこの国の状況をウルフェンスの口から聞かされることになったミカの表情が凍り付いていく。
それでもこの時は、ただ、
「そうか……」
と呟いただけだったが。
その後、件のロイドニア家が治めるロイドニア領に入ると、なるほど確かに宿場町はルベルソン領のそれよりも整備され立派なものだった。働いている者達も勤勉でミカの表情が少し穏やかになる。
が、そこの領主であるロイドニア家の当主、ブルッス=ディディオ=ロイドニアに迎えられた時、ミカの表情がまた凍り付く。
なにしろ、
「これはこれは陛下、わざわざありがとうございます」
とリオポルドとミカを出迎えたブルッス=ディディオ=ロイドニアの姿は、<怠惰>という概念を形にしたかのような締まりのない貌にニヤニヤと下卑た笑みを浮かべているだけであったのだから。
自分では何の努力もせず、ただ先人達が築いた既得権益を貪るだけの寄生虫のごとき人間だというのが一見しただけで分かってしまう。
『どうしてこんな者がのさばっていられるのだ……?』
口には出さないもののミカの表情は、彼女のことを良く知っている人間には彼女がそう思っているであろうと推測させるには十分なほど冷たく硬いものだった。
もっとも、この時点ではそこまで察することができる人間は彼女の周りにいなかったが。ウルフェンスでさえ、『機嫌が悪いな』と感じる程度でしかなかった。
再びここで二日間の<休息>を取ることになり、領民へのお披露目が終わるとすぐ、ミカはウルフェンスと共に宿場町を抜け出し、領内を巡ってみた。
すると、街道沿いは確かに栄えているのだが、一歩それを外れると、農地の様子はルベルソン領のそれとは比べるべくもなかった。街道を通る交易の商隊が落とす金を当てにして、農業については二の次三の次になっていたのである。
「……」
馬を下りて、雑草が農作物よりも勢い良く茂っている農地に足を踏み入れ、雑草を掴み、引き抜いた。そして根に付いた土を見る。
それはほどよい粘りを持った、多少でも知識のある人間が見ればすぐ分かるほどに肥沃な土だった。もっとも、だからこそ大して手を入れなくてもそれなりの実りが得られるのだろう。
ここの農民達はそれに甘えて畑よりも宿場町での仕事に精を出しているのは明白なのだった。
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