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歴史上最も忌むべき悪女
人治国家
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その後に現れた大臣も係官も、誰も彼も非常に緊張感の欠片もなく、しかも王妃を待たせたことについての謝罪もなく、皆一様に内容のない<おべんちゃら>で王妃のご機嫌を窺おうとする有様だった。
なのでミカは、待っている間にウルフェンスが名前を挙げたルベルソン家のネイサン=ドゥロ=ルベルソンを呼び、
「貴公は今、どのような仕事をしている?」
と前置きなく問い掛けた。
すると、突然の質問に、いかにも生真面目そうな青年といった様子のネイサンは訝しげに王妃を見詰めながらも、
「私は現在、我がルベルソン家の領地における牛の管理を任されております」
そう正直に答える。
それに対してミカは、
「ふむ。で、貴公は私に呼びつけられてその仕事を放り出して駆けつけたわけか?」
などと、見下すような視線を向けながらさらに問い掛けた。
「……!」
いくら王妃と言えど自分より十歳以上年下であるそんな彼女の不遜な態度に、彼は僅かに顔を高潮させながらも、
「本日は両陛下のご婚礼のめでたき日ですので、我がルベルソン家も家を上げてお祝い申し上げるために駆けつけておりました。ゆえに本日の仕事は休んでおります」
と説明し、その上で、
「ですが仕事については疎かにはしておりません。昨日までの内に予定を終わらせ、今朝早くに早馬を使いこうして参上いたした次第です」
とも告げた。
それは事実だった。ネイサンの父親でルベルソン家の現当主は昨日のうちに王都に入っていたが、ネイサンは、
「仕事を終わらせてから参ります」
として遅れて出立したのである。それを受けて、ウルフェンスはミカにそっと耳打ちした。
「彼の言は真実であります」
警備担当であるウルフェンスは王都に出入りする人間の管理も受け持っている。実際にネイサンが本日早朝に王都へと早馬によって駆けつけたことを確認していた。
瞬間、ミカはすっと立ち上がり、ネイサンに向かって深々と頭を下げた。
「貴公に対する非礼、心よりお詫びする」
と謝罪しながら。
「え……っ!?」
思いがけぬ光景にネイサンは息を呑み、言葉を失う。
これは、ミカによる一種の<試験>だった。今で言う<圧迫面接>のようなものではあっただろうが、ごく短時間に相手の人間性を推し量る必要があったため、敢えて非常の手段としてそれを選んだのである。
そして、
「加えて、非礼を承知の上で貴公に頼みたい。実は農政大臣のスーリントン卿を先ほど解任したのだ。その後任を貴公に任せたい」
単刀直入に告げる。
法の支配が形だけでしかない、実質的な<人治国家>であるからこその、法的な手順一切を無視した無茶であった。
なのでミカは、待っている間にウルフェンスが名前を挙げたルベルソン家のネイサン=ドゥロ=ルベルソンを呼び、
「貴公は今、どのような仕事をしている?」
と前置きなく問い掛けた。
すると、突然の質問に、いかにも生真面目そうな青年といった様子のネイサンは訝しげに王妃を見詰めながらも、
「私は現在、我がルベルソン家の領地における牛の管理を任されております」
そう正直に答える。
それに対してミカは、
「ふむ。で、貴公は私に呼びつけられてその仕事を放り出して駆けつけたわけか?」
などと、見下すような視線を向けながらさらに問い掛けた。
「……!」
いくら王妃と言えど自分より十歳以上年下であるそんな彼女の不遜な態度に、彼は僅かに顔を高潮させながらも、
「本日は両陛下のご婚礼のめでたき日ですので、我がルベルソン家も家を上げてお祝い申し上げるために駆けつけておりました。ゆえに本日の仕事は休んでおります」
と説明し、その上で、
「ですが仕事については疎かにはしておりません。昨日までの内に予定を終わらせ、今朝早くに早馬を使いこうして参上いたした次第です」
とも告げた。
それは事実だった。ネイサンの父親でルベルソン家の現当主は昨日のうちに王都に入っていたが、ネイサンは、
「仕事を終わらせてから参ります」
として遅れて出立したのである。それを受けて、ウルフェンスはミカにそっと耳打ちした。
「彼の言は真実であります」
警備担当であるウルフェンスは王都に出入りする人間の管理も受け持っている。実際にネイサンが本日早朝に王都へと早馬によって駆けつけたことを確認していた。
瞬間、ミカはすっと立ち上がり、ネイサンに向かって深々と頭を下げた。
「貴公に対する非礼、心よりお詫びする」
と謝罪しながら。
「え……っ!?」
思いがけぬ光景にネイサンは息を呑み、言葉を失う。
これは、ミカによる一種の<試験>だった。今で言う<圧迫面接>のようなものではあっただろうが、ごく短時間に相手の人間性を推し量る必要があったため、敢えて非常の手段としてそれを選んだのである。
そして、
「加えて、非礼を承知の上で貴公に頼みたい。実は農政大臣のスーリントン卿を先ほど解任したのだ。その後任を貴公に任せたい」
単刀直入に告げる。
法の支配が形だけでしかない、実質的な<人治国家>であるからこその、法的な手順一切を無視した無茶であった。
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