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第四世代

凛編 全知を目指す

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そうだな。<全知>なんてもんを持つ人間は存在しないし、そもそも<生物>という存在自体が、

『その構造として全知にはなり得ない』

というのは確かなんだろう。全知になるには物理的な限界が低すぎるんだ。生物は。

地球人社会では、超AIの開発によってその事実を思い知らされてきたんだと。現在の地球人の活動範囲内で入手できるあらゆる物質を使ってAIの性能向上を目指してきた。それにより現在のAIは人間をはるかに超越した思考能力と記憶能力を獲得したんだ。しかしいまだに、地球人社会最高の性能を誇るAIでさえ、全知には程遠いそうだ。

それは俺も実感してる。エレクシア達メイトギアはまあ搭載できるAIの記憶容量の物理的限界が厳しいから無理なのは当然としても、光莉ひかり号のそれは、性能を十全に発揮するために必要な周辺機器を含めれば小さめの一軒家ほどの大きさがあるんだ。

なのに、地球人社会で用いられていた技術のすべてのデータを細大漏らさず持ってるわけじゃない。これだけでももう全知じゃないことが分かる。

まあ、もしそうだったとしても、再現するのに必要な材料がここじゃ手に入らない以上、恒星間航行技術ハイパードライブを修理することはできないけどな。

つまり、<全能>でもない。

そう言えば、

『フィクションにおける天才キャラは、実際には作者以上の能力は持っていない』

みたいなこともよく言われてたのを覚えてる。

『天才キャラを天才として描写するために、途轍もない難問を解いてみせたみたいな説明をされるが、実際にその難問を解いた詳細な手順は描写されない。なぜなら作者自身がそれを理解できないから』

というのと同様に、

『神は全知全能である』

みたいに考える人間も、

『じゃあ、その神はどんな風に全知全能なんだ?』

と問われても、具体的に説明はできないということだな。それがもしできるなら、そいつこそが全知全能なわけで。

全知全能が再現できない以上、<全知全能の神>なんてものはいないのと同じだし、いなくても別に人間社会は成立するわけだ。

たとえもしそんなものがいたとしても、おそらく人間には観測できないだろうさ。完全に人間の認知能力の外に存在するだろうし。

<人間が想像する神>は、所詮、それを想像してる人間の能力を超えるものじゃないってことだろうな。

神を信じるのはいい。それを心の支えにするのも好きにすればいいと俺は思う。思うが、自分が頭に思い描いている<神の姿>は、結局のところ自分自身の投影でしかないってのをわきまえるべきだと俺は思う。

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