上 下
2,266 / 2,387
第四世代

凛編 ここで生きていく適性

しおりを挟む
新暦〇〇四十年一月四日



日付が変わった頃、ひとしきり遠吠えをしてようやく落ち着いたらしいかいは、自らの命を終えたまいの体を抱えて、コーネリアス号の貨物室のハッチ前までやってきた。

それをアンデルセンが出迎え、まいの遺体を恭しく預かり、

「それでは丁重に弔わせていただきます」

深々と頭を下げた。するとかいも同じように頭を下げる。

彼にはその意味は分かってないだろうが、アンデルセンらの真似をするようになったんだ。

そうして自分の巣に戻ったかいを見届けて、アンデルセンはまいの遺体を抱えたままコーネリアス号の船体の脇に移動した。

そこは、りん達の巣がある側ではありつつ、緩いカーブを描く船体の陰になっていて直接は見えない位置で、いくつもの墓標が並んでいた。

<墓地>だ。

墓地として利用している区画だった。

そうのパートナーの一人だったたくや、かいのパートナーの一人だったほんをはじめとして、そうかいの群れの仲間達を弔うための、な。

途中から群れに加わった者達については、レオンの群れではそれ自体が珍しいことでもなかったのもあって、あまり詳細には触れてこなかったんだよ。

そして、そうやって仲間に加わった者達の中には、狩りの最中に獲物に反撃されて当たり所が悪かったり病気などで命を落とした者もいる。

加えて、しんにとってのれんのように、死産だったりということも。

こうして命を終えた者、生まれてくることができなかった者達を弔う場として、設けたんだ。

まあ、必ず遺体が埋葬されてるわけじゃないけどな。狩りの最中に命を落とした者は連れ帰れなかったし、死産だった者は、れんと同じように胎盤と一緒に母親に食われてしまったりで。

だが、野生に生きるレオンにとってはそれ自体が<日常>なんだ。れんのことにしたって、俺のすぐ身近での話で、初めての経験だったからこそ、俺自身にとっても大きな衝撃があったってだけで、これが二度三度となってくると、さすがに。

決して『慣れて』しまったわけじゃないとは思うものの、毎度毎度、れんの時と同じように動揺していてはここで暮らしていくことなんてできないさ。

そう自分に言い聞かせてきたし、そう割り切ることもできてきた。

それができたってのは、俺に<ここで生きていく適性>があったってことだろうな。

これは『良い悪い』じゃない。

『生きていくにあたってその方が適してる』

というだけの話だ。これを『薄情だ』と言う人間もいるだろうが、そんな風に感じるのも自由だろうが、現実問題としてそこを受け止められるかどうかは、『生きる』ということそのものを受け止められるかどうかに大きく影響してくると俺は思うよ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

精霊のお仕事

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:123

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,679pt お気に入り:4,655

悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:12,410pt お気に入り:6,021

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,087pt お気に入り:281

追放の破戒僧は女難から逃げられない

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:618pt お気に入り:167

冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,621pt お気に入り:9,008

異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:2,452

処理中です...