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第四世代

ホビットMk-Ⅱ編 地球人にとっての可愛げ

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そんな<ルカニディアの少女>は、とても穏やかな毎日を送っていた。

倒れた木が重なり合って屋根のようになったところを<寝床>にして、その周囲の半径二キロから三キロくらいが彼女の縄張りのようだ。

半径二キロから三キロと言えばいかにも小さいと感じるかもしれないが、ここの密林はとても豊かだからな。餌になるものを得るにはそれでも十分なんだよ。

しかもルカニディアの<縄張り>は、マンティアンのそれと違ってかなり緩いもののようだ。お気に入りの木の実や果実を横取りでもされればさすがに衝突にもなるとしても、基本的に他のルカニディアの姿を自身の縄張り内で見掛けても、その場でぶつかるわけじゃないし。

そういう部分はマンティアンとは異なっているな。

それでいて<ルカニディアの少女>も、夜明けと共に目を覚ますとまずは縄張りの巡回を始めるのが日課のようで、この辺りはめいと同じではあるか。

朝露に濡れた下草をかき分けて進むから彼女の体も濡れて、木々の間から差し込む朝日がそれをキラキラと輝かせ、何とも綺麗だった。

でもまあ、<マジョーラカラー>と呼ばれる、

<見る角度によって色が変わる塗装>

を思わせる体色をしたマンティアンに比べると、基本的にはブラウン系の色をしたルカニディアはいかにも地味な印象ではある。が、それも、俺がめいの父親だからこその贔屓目もあるのかもしれない。ルカニディアの少女だって、

『綺麗』

なんだよ。目を惹かれる美しさは確かにある。それは事実。

そんな彼女の姿を、ホビットMk-Ⅱが、十分に離れた位置から観察している。その前で、彼女は頭上に生っていた木の実を手に取り、それをひょいと口に放り込んだ。

「ガリッ、バリッ」

と硬い音が届いてくることで、

『女の子がお菓子を食べている』

みたいに見えなくもなかった光景が、何とも言えない感じになったけどな。正直、<可愛げ>はないか。かなり固い木の実を容易く噛み砕くだけの顎の力を持ってるのがこれで分かる。おそらく地球人じゃ、下手すると自分の歯の方が砕けたりする可能性さえあるだろう。

ただ、可愛げはなくても、野生の中でたくましく生きていけるだけの地力は備えているんだと感じられて、頼もしくはある。俺としてはむしろホッとする。めいに似たその少女が頼りない印象じゃ、きっと不安になってしまうだろう。

だからそれでいい。

<地球人にとっての可愛げ>

なんて、別に必要ないからな。

ここは彼女達の世界なんだ。

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