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第四世代

ホビットMk-Ⅱ編 ある種の再現映像

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確か以前にも触れたと思うが、地球人社会における、

<高度シミュレータによるシミュレーション>

は、わざと自身のアバターの解像度を下げて、

『あくまでもシミュレーションの中である』

ことを意識させておくようにしないと現実との区別がつかなくなって、最悪、自我が崩壊する危険性さえあるものだそうだ。

そのシミュレーション内に存在する<登場人物>達も、まったく生身の人間と変わらない反応を見せてくれるしな。これは、数千年に及ぶ人間そのものの膨大なデータとそれを確実に運用できる<超AI>の存在が可能にしたものなんだと。

だからこそ、

『AIやロボットにも心がある』

と考える人間がいるわけだ。そこまでのものを実際に再現してくれるんだから、

『心を持ってないAIにここまでのことができるはずがない』

的に感じてしまうのがいるのも無理からぬことではある。

しかしこれ自体、

『膨大な人間そのもののデータの中から最適な反応を抽出しているだけでしかない』

そうなんだよなあ。反応そのものは確かに生身の人間のそれなんだが、だからこそリアルな反応なんだが、それはやっぱり、

<データの中から抽出された映像のようなもの>

でしかないんだ。AI自体が心を持ってるんじゃないんだよ。

例えば、タブレットで実際の事件などの際にたまたま撮られた映像が流れていて、そこで感情的になっている人間が映っていたとしても、別にタブレット自体が感情や心を持っているわけじゃないだろう?

それと同じだ。シミュレータの中では映像そのものが使われているわけじゃなくて、

<ある種の再現映像>

みたいなものではあるものの、たいていの人間にはそれが<リアルな反応>なのか<再現映像>に過ぎないのかの区別はつかないだろうな。俺だってそれを区別できる自信はない。

そういうアトラクションがあったんだよ。両親がまだ生きていて妹の光莉ひかりが外に出歩くことができていた頃に家族で行ったテーマパークのアトラクションだったそれは、

『事故により沈没し始めている船から脱出する』

という内容だったが、そこに出てくる<CGで再現されたモブ>達のリアクションがものすごくリアルで、子供にとってはトラウマものだったと思う。光莉ひかりも、『船が沈没しかけている』ことよりもモブ達のパニックが怖くて、途中でリタイアしてしまったくらいだ。

しかもこれには後日談があって、最初は全年齢向けになっていたそのアトラクションが、

『子供がトラウマを受ける』

とクレームがついたらしくて、途中から、

<十五歳以上の年齢制限>

が加えられていたりしたんだよな。

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