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第四世代

丈編 ただの思考じゃない

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『人間の場合は生まれた時点でもう心が生じるようにできてしまってる』

これは事実だと思う。脳の構造そのものが、そして身体機能そのものが、<心>というものを生じさせるそれになってしまっているんだろう。

以前にも触れたかもしれないが、<心>ってヤツは脳内で行われてる<思考>だけを言うんじゃないと、脳の専門家や心理学の専門家は唱えているそうだ。俺もそれには賛同できてしまう。

なにしろ、人間は不安や悲しみを感じると、胸が苦しくなったり体が重くなったように感じたりするだろう? それにより、自分が悲しんでたり不安になったりしてるってのを改めて自覚したりもする。だから、義体化してそういう身体的な反応がなくなると自身の精神状態を客観的に認識できず、人間性が失われていくことが実際にあったそうだ。

ゆえに、<義体化技術>は、フィクションのようには一般化しなかった。

ビアンカと久利生くりうの同僚だった軍人も、戦闘で瀕死の重傷を負ったことをきっかけに義体化し、その力に魅入られてさらに強力な義体へとバージョンアップを繰り返し、やがて完全な<宇宙戦闘艇>になってしまったらしいが、最初に義体化した時点でもうかなりビアンカや久利生くりうは違和感を覚えていたそうだ。

なにしろその彼は、家族想いで知られていたにも拘わらず、まるで家族のことなんかどうでもよくなったかのようにその話題に触れなくなったらしいしな。相手からそれを振られないと、自分からはしなくなったと。

それも、『わざと避けてる』って感じじゃなく、『意識しなくなってる』という印象だったらしい。

これについて久利生くりうは、

「人間は、大切な人のことを想うと胸があたたかくなったり苦しくなったりするだろう? けれど、彼が得た義体にはそれがなかった。だから彼自身、家族のことを意識させられなくなっていったんじゃないかと僕は感じたんだ」

と言っていたな。

俺もそれを聞いて、

「なるほど、そういうのも確かにありそうだ」

と感じたよ。エレクシアも言う。

「そうですね。私達ロボットには、人間のように心理的な変化が身体に影響を与えるという機能がそもそも備わっていません。ですので、人間が『あの人のことを想うと胸が苦しくなる』的なことを述べていても、それを実感することができないのです」

ってな。

<心>ってのものを<単純な思考>だと捉えれば、なるほど人間と変わらない、むしろそれ以上の思考力を得たAIやAIが制御してるロボットに心が生じてもおかしくないと感じるだろう。

だが実際には、心ってのは<ただの思考>じゃないんだよな。

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