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第四世代

丈編 連続性

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先ほども触れたとおり、ただの<経済的損失>であれば後から補填することもできるし、取り戻すことができる。壊れたものは直せばいいし、同等品を用意することだってできるだろう。

だが、命はそうじゃない。失われた命は決して戻らない。

シモーヌも、ビアンカも、久利生くりうも、シオも、レックスも、ルイーゼも、いくらオリジナルと同じ記憶を持っていても実際には<別人>だ。決して<本人>じゃない。同じ<秋嶋あきしまシモーヌ>の記憶を持ちながら<シモーヌ>と<シオ>という別人として存在している事例からもそれは明白だ。そしてシモーヌもシオもそれを承知し、受け入れている。

『どんな由来があろうとも自分は自分』

と考えられてるんだよ。そんな風に考えられない人間ももちろんいるだろうが、

『考えられる人間がいる』

という時点で、

『考えられる人間はいない』

なんてのはもう<絶対>じゃない。だから、どれだけ同じ記憶を持っていても、元々の当人の肉体からの連続性がない個体は別人であって、

<生き返り>

は存在しないってのが今の地球人社会の<大原則>なんだよな。人間の肉体は新陳代謝によって大部分がいずれ入れ替わってしまうが、だからといって別人になってしまうわけじゃない。

しかも、オリジナルのビアンカと同じくオリジナルの久利生くりうの元同僚で、サイボーグとなりそこからさらに自らを強化していったことで完全に人間の姿を失ったどころか、

<戦闘用宇宙艇そのもの>

になってしまったのがいたらしいが、その事例については、

『あくまで元の人間が肉体を機械化していっただけであって連続性はあり、人間でなくなってしまったわけじゃない』

として、実は人間としての<権利>などは失われていないそうだ。

まあこの件については、

『軍が人間を戦闘兵器に改造した』

みたいな話でもあるから、最高レベルの機密として秘匿されて、事実上は当人の<人権>などは担保されてなかったらしいけどな。しかし、俺がいた六十世紀の地球人社会ではそういう事例もしっかり人間であるとされるんだ。

ちなみに、先の事例について、

『よくAIが対処しなかったな』

と思うかもしれないが、最初のサイボーグ化については命を救うためのやむを得ない処置だったし、

『その後に再生医療で元の肉体を再生して取り戻すこともできたにも拘らず本人が望んで自らを強化していった』

のもあって、AIとしても対処できなかったそうだ。

だからこそ逆にただの経済的損失については<命>よりも優先されることはないし、AIは決してそんなものを優先はしない。

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