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第四世代

丈編 検討する価値なし

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AIにとって<トロッコ問題>というのは、まったく意味不明なものらしい。

『どうしてそんな状況になるまで放置していたのか?』

という疑問が何より前に来てしまって、

『本来なら有り得ない状況であり、検討する価値なし』

という判断になるそうだ。

<仮定の話>

をするにしても、

<そもそも有り得ない仮定>

というものを想定することができないからだ。

これがあくまで、

『創作物を作る』

ということなら、盛り上がる展開になるように考えるのはできるそうだが。

しかし、

『創作物の中の設定で現実の事態を想定する』

というのが、何の意味があるのかさっぱりなんだと。

エレクシアは言う。

「私達は、人間の行いを否定はしません。ですが、『否定しない』ことと『理解できる』とはまったく別のものですね」

相変わらず淡々としていて、ともすれば<辛辣>とさえ受け取られかねない物言いではあっても、彼女の言葉には人間のような感情はこめられていない。どこまでも事実を事実として言語化しているだけだ。

「人が死傷する可能性のある状況を、私達は看過できません。人間が『どちらかが必ず死傷する』などという深刻な事態を招くのが分かっている状況を放置できるというのが、私達にとってはまったく理解できません。

人間はなぜそのようなことができてしまうのですか?」

彼女はそう言うが、別に納得できる<答>を求めてるわけじゃないのは、俺も承知してる。

加えて、人間がそんなことをできてしまうのも、

『悪い結果に至ることはないだろう』

という、

<正常性バイアス>

の働きが大きく影響しているのは分かっているんだ。

だが、<心>を持たないAIとAIによって制御されるロボットは、そもそも<バイアス>というものを持たない。

人間はバイアスの働きによって精神の安定を図り、心理的な疲労を和らげる必要があるが、心を持たなければそうやって精神の安定を保つ必要もないということだな。

好ましくない事態を引き起こす要因となるものがあれば、それを無視することなくその時点で対処しようとするんだ。

まあでも、そこまで大きな危険でないなら、人間が、

『対処しなくていい』

と命令すればそのままにもしててくれるけどな。

何しろ、些細な危険の可能性にまですべて対処していたら、それこそキリがないわけで。

当然、AIの方もそれは理解しているから、きちんと優先順位は付けてくれる。ちょっとばかり経済的な損失が出る程度のことであれば、スルーもしてくれるんだ。

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