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第四世代

丈編 主役

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新暦〇〇三八年六月十二日



こうして、

『自身の選択が自らに返ってくる』

という事実を改めて目の当たりにし、俺はそれを<経験>として活かしていくことの重要性を一層実感した。

特に人間(地球人)は、個体のフィジカルそのものはあまりにも非力だから、

『自身が得た経験を活かし、より確実に身を守る』

のはすごく重要だよ。フィジカルが地球人とは比べ物にならない猪竜シシだからこそあそこまで粘れたが、もしかするとあそこから逆転できる目もなかったわけじゃないだろうが、残念ながらあの猪竜シシにはその目が巡ってはこなかったということだ。

それ自体、誰が悪いわけでもない。誰が正義で誰が悪かという話でもない。

どちらもただ『生きようとしている』だけなんだ。あくまでたまたま結果がそうなったという話に過ぎない。

ホビットMk-Ⅱは、それに巻き込まれただけでしかないとも言えるだろうな。

ここではロボットは決して<主役>じゃないしな。

それに、実際に現場に居合わせたホビットMk-Ⅱが得たデータは瞬時に他のロボットと共有され、決してその機体だけのものじゃなくなるんだ。

だから当然、

『誰が主役か?』

みたいな話がそもそも成立しない。その場に居合わせたわけじゃなく、あくまで自身の周囲に配置されていたホビットMk-Ⅱを統括していただけのドーベルマンDK-a拾弐じゅうに号機でさえ、今回のホビットMk-Ⅱの経験を共有しているわけで。

人間の場合だと完全な別人の記憶をそのまま持っているようなものとも言えるだろうか。

そのような状況は、人間という生き物では受け止めきれないだろう。自分と他者の境界が曖昧になり、自我を保てなくなると思われる。

そりゃそうだ。自分の記憶だか他人の記憶だかまったく区別がつかなくなるんだからな。元より<自我>というものを持たないロボットだからこそ成立する話ではある。

これまでにも何度か、それぞれのロボットを主役のように見立てて出来事に触れてきたりもしたが、それらの経験についても、すべてのロボットが記憶と情報を共有している。

さすがにメイトギアとではロボットとしての性能が桁違いすぎて完全な形での共有には至っていないが、データだけはしっかりと持っているんだ。

つまり、夷嶽いがく牙斬がざんといった、

<不定形生物由来の怪物>

に破壊された機体の記憶やデータも、エレクシア達は持っている。

人間で言うなら、

『<死ぬ瞬間の記憶>も持っている』

といったところか。

そんな状態、人間ならそれこそ正気を保っちゃいられないだろう。

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