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第四世代

丈編 同じ情緒は備わっていない

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新暦〇〇三八年六月三日



ただ毎日のんびりと過ごしていたしんの時と同じように、じょうのことに触れようにも目立った印象的な話題が本当にない。

もちろん、しんと同じく肉食の猛獣だから、その日常は大変に血生臭いものなのは事実だ。獲物として狙った動物には容赦がなく、しかもマンティアンの習性として、まだ生きて動いている状態でなければ食べないというのも、地球人の感覚からすれば残忍で残酷なようにも感じられるだろう。

それこそ、迷信が事実のごとく信じられていた時代なら、

<人喰いの怪物>

として恐れられ、忌み嫌われたに違いない。

でもなあ、しんもそうだったが、俺達のことは敵とも思ってないし、ましてや獲物として狙うこともないんだ。

これについて、エレクシアも、

じょうは、『仲間だから』と言っています」

と証言してくれている。メイトギアの機能として、<マンティアンの言語(のようなもの)>を解析して本人から聞き出してくれたんだ。

これがもし人間の<専門家>がそう言ってるだけだと、正直なところどこまで信用していいのか分からない。地球人はとにかく、

<自分の解釈>

ってのを加えたがるからな。

<自意識>と言うか<自己顕示欲>と言うかが強すぎるんだ。その点、ロボットにはそんなものはないし、そのままのニュアンスで伝えてくれる。こういう時は<文学的表現>なんか要らないんだよ。

そもそもマンティアンに地球人と同じ情緒は備わってないと考えた方がいいからな。

ゼロではないとしても、俺達のことを仲間だと認識してくれる程度の感性はあるものの、<親近感>とか<親愛の情>のようなものは、地球人が思う形とはまるで違ってるしな。

めいひかりを慕って会いに来てくれたりしたにせよ、じょうにはそういうのは一切ない。敵や獲物としては見做してないが、それだけだ。だから事実上『ない』と言っても差し支えないくらいには異質なんだ。

それでももう俺にとってはそっちが<普通>だからな。その普通の範疇に収まっていることしか起こってない以上は、印象に残りようもない。

ないが、それは同時に平穏であることの証拠だから、俺としてはむしろホッとしている。

縄張りを奪いにきた他のマンティアンについても、実に危なげなく追い払っている。

エレクシアから学んだ体の使い方を、自身の経験と合わせて今ではすっかり自分のものにしてる。<地球人の身体機能>をベースにしたメイトギアの体の使い方とマンティアンの体の使い方は微妙に違うが、それもしっかりと補正できてるし。

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