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第四世代
閑話休題 丈の日常
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丈はマンティアンである。
同じくマンティアンである刃の息子で、明の弟でもある。
そしてマンティアンらしく、とても影が薄い。刃や明も気配を消すのは巧かったが、丈は二人を上回っているだろう。
それは、
『目立つ振る舞いをしない』
という形でも発揮されていた。
『印象に残る振る舞いをしない』
と言い換えてもいいだろうか。
なんにせよ、実の父親である神河内・F・錬是にとってでさえ、彼についての<思い出>は、娘である明よりも圧倒的に少なかった。
だが、当の丈はそれを気にしたりはしない。マンティアンは、そもそもその種の<親子の情>的なものをほぼ備えていないと言ってもいいくらいに淡白な情緒を持つ種族だった。
もっとも、それはあくまで、
『地球人に比べて』
『地球人の感性では』
という意味ではある。だから、実の父親にとってさえ『印象が薄い』と思われていても気にはしないものの、さりとて『まったくない』というわけでもなかったりするのも事実だった。
加えて、地球人である錬是を父に持ち、彼の下で家族に囲まれて育った丈は、確実に一般的なマンティアンよりは情動というものも持ち合わせていただろう。
ゆえに、自身の<家族>である連是達を襲うようなことはしなかった。マンティアンそのものは、たとえ血の繋がった親兄弟であっても共食いさえ行うにも拘わらずである。
その丈も、マンティアンとしては<後期高齢者>と言っていい年齢となっていた。他の種族に比べると分かりにくいが、実際にかつての姿と比べると確実に<精悍さ>のようなものは失われている。
が、
「……」
自身の<縄張り>に侵入してきた若いマンティアンを、造作もなく退けてみせた。身体能力的には確実に衰えてきているものの、体の使い方が巧みなのだ。無駄なく最小最短の動きで最大の効果を発揮するのである。
もはやその動きは<戦闘能力を備えたロボット>のようでさえあった。
<老いたマンティアン>と侮っていた相手は、若さに任せた強引さで挑んできたもののわけもなくあしらわれ、這う這うの体で去って行った。
「……」
それをやはり<印象に残らない淡白さ>で見送る丈の姿は、<強者>という印象さえ抱かせない。それどころか、
『<肉食の猛獣>にさえ見えない』
と言っていいだろうか。
しかし丈は、そうしてこれまで縄張りを守ってきたのである。それが日常だった。
自身の力で。
そんな丈の背後に、やはり気配を悟らせない何者かの姿。
明らかに自然物とは思えない成り立ちをしているにも拘らず、まるで最初からそこにあったかのように何かがいたのだった。
同じくマンティアンである刃の息子で、明の弟でもある。
そしてマンティアンらしく、とても影が薄い。刃や明も気配を消すのは巧かったが、丈は二人を上回っているだろう。
それは、
『目立つ振る舞いをしない』
という形でも発揮されていた。
『印象に残る振る舞いをしない』
と言い換えてもいいだろうか。
なんにせよ、実の父親である神河内・F・錬是にとってでさえ、彼についての<思い出>は、娘である明よりも圧倒的に少なかった。
だが、当の丈はそれを気にしたりはしない。マンティアンは、そもそもその種の<親子の情>的なものをほぼ備えていないと言ってもいいくらいに淡白な情緒を持つ種族だった。
もっとも、それはあくまで、
『地球人に比べて』
『地球人の感性では』
という意味ではある。だから、実の父親にとってさえ『印象が薄い』と思われていても気にはしないものの、さりとて『まったくない』というわけでもなかったりするのも事実だった。
加えて、地球人である錬是を父に持ち、彼の下で家族に囲まれて育った丈は、確実に一般的なマンティアンよりは情動というものも持ち合わせていただろう。
ゆえに、自身の<家族>である連是達を襲うようなことはしなかった。マンティアンそのものは、たとえ血の繋がった親兄弟であっても共食いさえ行うにも拘わらずである。
その丈も、マンティアンとしては<後期高齢者>と言っていい年齢となっていた。他の種族に比べると分かりにくいが、実際にかつての姿と比べると確実に<精悍さ>のようなものは失われている。
が、
「……」
自身の<縄張り>に侵入してきた若いマンティアンを、造作もなく退けてみせた。身体能力的には確実に衰えてきているものの、体の使い方が巧みなのだ。無駄なく最小最短の動きで最大の効果を発揮するのである。
もはやその動きは<戦闘能力を備えたロボット>のようでさえあった。
<老いたマンティアン>と侮っていた相手は、若さに任せた強引さで挑んできたもののわけもなくあしらわれ、這う這うの体で去って行った。
「……」
それをやはり<印象に残らない淡白さ>で見送る丈の姿は、<強者>という印象さえ抱かせない。それどころか、
『<肉食の猛獣>にさえ見えない』
と言っていいだろうか。
しかし丈は、そうしてこれまで縄張りを守ってきたのである。それが日常だった。
自身の力で。
そんな丈の背後に、やはり気配を悟らせない何者かの姿。
明らかに自然物とは思えない成り立ちをしているにも拘らず、まるで最初からそこにあったかのように何かがいたのだった。
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