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第四世代

深編 罰が罰として機能しない輩

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新暦〇〇三八年五月十三日



ああそうだ。

『自分の欲を我慢できないのは人間の本能だから』

というのが本当なら、<躾>なんてのは何の意味もないただの<ごっこ遊び>ってことになる。本能を本当に躾で抑えられるなら、誰も苦労はしない。

なるほど、犬を人間社会で飼うために躾を施したりはするが、それさえ、

『人間の指示に従った方が自分にとって得になる。いい気持ちになれる』

というのを犬に認識させることで成立するらしいじゃないか。要するに<損得勘定>だよな。根底にあるのは。

実際、

<飢えて生きるか死ぬかの瀬戸際>

に立たされた人間にとって<躾>や<人権>なんてものがどれほど役に立つ? 相手を殺してそいつが持っている食料を奪わなきゃ自分が死ぬとなった時に、自分の大切な者が死ぬとなった時に、

『人間なら我慢しろ』

『相手にも人権がある。生きる権利がある』

と説いたところでどんな説得力がある? むしろ、

『相手にも生きる権利があるんだったら、同じく人間である自分達にも生きる権利はあるはずだ!』

ってならないか? なんで自分や自分の大切な者が死ぬことを我慢してまで相手を思い遣らなきゃいけない?

実際、<生きる権利>を保証し、最低限、生きていけるだけの諸々を手に入れられるようになればこそ、『相手を殺して食料を奪う』ってのは必要なくなるわけで。

『それをする必要がなくなる』

のが、結局は最も強力な<抑止力>なんだよ。

それをする必要をなくした上で、

『必要がないのに相手の権利を害した場合には、懲罰が下される』

という形にしなきゃ、<罰>というものも効果を発揮しない。

罰が罰として機能しない輩のことを、

<無敵の人>

とか呼んだんじゃないのか?

そういう輩が起こす事件が後を絶たなかったんじゃないのか? 元より罰が罰として効果を発揮しない奴を抑えるために厳罰化を行ったって、抑止力にはならないぞ? 事件を起こした奴が厳罰に処されるのを見て無関係な第三者が溜飲を下げたところでそれも抑止力にはならないしな。そんなものはただの<娯楽>だろう。

かつて、<公開処刑>を見世物としていた時期もあったらしいが、何も変わってないってことだな。

俺も、その実感しかない。

死産した自分の子供を食ったしんを裁くことにも罰することにも、俺は意味を見出すことができない。それをやめさせたいのなら、その必要をなくすことから始めなきゃな。

まあ、やめさせる必要自体、まったく感じないけどな。

しん達が野生で生きている以上は。

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