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第四世代

深編 聞き分けのいい子

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人間である限り、感情を完全に制御することはできないだろう。俺自身、自らの経験からもその実感しかない。ここでも、誰を助けて誰を助けないかの区別については、どんなに理屈を並べても結局のところ最終的には感情で決めてるしな。

まどかを助けたのもうららを助けたのもれいを助けたのも水帆みなほを助けたのも、あくまでもその時の感情に従ってのことでしかない。だから感情そのものを否定するつもりもないんだ。それを否定するというのは、人間という生き物そのものを否定するのと同じだと思う。

でもな、同時に、感情を律することをやめたら、<社会性の動物である人間>というものをやめるのに等しいと思うんだよ。

『社会というものを維持するには特定の個人の感情ばかりを優先することはできない』

というのも事実のはずなんだ。

そしてそれを、普段の暮らしの中で、ごくごく日常的な振る舞いの中で、子供に対して手本として示していくのが、<人間の親>というものの役目だと俺は考えてるし感じてる。

言葉だけをいくら並べても、実感としては伝わらないだろう。

だからこそ、

『口で言っても分からない』

みたいなことを言うのがいるんだろう?

口で言っても分からないのなら、実際の振る舞いで示すべきなんじゃないか?

怒鳴ったり殴ったりじゃなく、具体的な振る舞いを手本として示せばそれで済む話だと思うんだよな。

そもそも野生の動物の場合は、それこそ普段の振る舞いでしか生き方を示しようもないし。<言葉のようなもの>を使うのもいたりはしつつ、地球人のそれほどは複雑でもないのも事実なわけで。

地球人が言う<躾>のようなことも、確かにひそかほまれを育てていた時や、ほまれの群れでも行われてはいたが、果たしてどれほど効果的だったかと言われたら、そこまでの印象は正直言ってなかったな。

ヤンチャっぷりを発揮するほまれを押さえ付けたりもしたひそかだったものの、彼のヤンチャっぷりに比べるとそれはほとんど効果らしい効果を発揮しなかったと思う。だからこそ、他の群れの反感を買って追い回されて、メイフェアとの出逢いのきっかけを作った逃亡劇を演じる羽目になったりしたんだし。

しかも、別にその<やらかし>をそのものを反省したわけでもなく、それどころか自分のやらかしで得た<メイフェアという強大な力>を後ろ盾にして、俺の下を巣立って合流した群れでの地位を確立。ボスの座まで獲得してしまったというのはまぎれもない事実。

<大きな事を成し遂げる者>

ってのは、えてして、

<聞き分けのいい子>

ってわけじゃなかったりするよな。

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