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第四世代
深編 メリハリが必要
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新暦〇〇三八年三月六日
もうすぐ生後二ヶ月を迎えようとしてる水帆は、すごく順調に育ってる。
<先祖返りを起こしたクロコディア>
という意味じゃ先例とも言える未来をビクキアテグ村で育てた時のデータが役に立ってる実感がある。
もっとも、未来の時も実際に育てていたのは実の母親である來であって、血縁上の父親である久利生さえほとんど育児そのものには関われなかったのも事実だけどな。
しかしそのこと自体が役に立ってるとも言えるんだ。
水帆の場合でも、実際に彼女の世話をしているのはライラとオルトであり、名目上の両親である俺もシモーヌも、ほとんど関わることはできていない。
ただ、一歳四ヶ月を迎えようとしてる錬慈は、
「みいちゃ?」
池の中でライラにミルクをもらってる水帆を見てそう言いながら指をさしてた。
「ああそうだ。水帆だ。錬慈の妹だぞ」
俺は穏やかな表情を意識しつつ応える。すると彼も、
「みいちゃ! みいちゃ♡」
嬉しそうに足をバタバタさせて興奮する。血はまったく繋がっていなくても名目上でしかなくても、<自分の妹>のことが可愛くて仕方ないらしい。
「みいちゃ♡」
声を上げつつ錬慈自身も池に近付いて行って水面を叩いた。
「こらこら、そんな風にしたら水帆が怖がるだろ?」
俺は、強引にやめさせようとするわけじゃないが錬慈の体を支えて池に落ちないようにしつつ、諭すように声を掛けた。
もっとも、今はまだ、彼には十分に言葉の意味が理解できてないから、すぐには水面を叩くのはやめない。と、ミルク(メイガスに搾乳してもらった母乳を基にしたもの)を飲んでいた水帆が、
「……」
怒ったような困ったような表情になりつつ、錬慈を睨み付けた。
「!」
これには錬慈もハッとなって水面を叩くのをやめる。俺に咎められてもなぜ咎められているのかはまだ理解できないだろうが、水帆が不機嫌そうに睨み付けてきたことで、自分がマズいことをしていると感じたんだろう。
普段、俺もシモーヌも彼に対して不機嫌そうな表情をなるべく向けないように心掛けていることで、逆にそういう表情に敏感になっているんだろうさ。
これが普段から不機嫌そうな表情ばかり見せてたらむしろそれが<普通>になってしまって、本当に機嫌が悪いのかどうなのかも判然としなくなるだろうな。そういうメリハリが必要なんだと実感する。
光も灯も、何か諫めないといけないようなことがあった時には険しい表情を見せるだけで、自分が何かマズいことをしたと察してくれたよ。だから怒鳴ったり叩いたりする必要もなかった。
もうすぐ生後二ヶ月を迎えようとしてる水帆は、すごく順調に育ってる。
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という意味じゃ先例とも言える未来をビクキアテグ村で育てた時のデータが役に立ってる実感がある。
もっとも、未来の時も実際に育てていたのは実の母親である來であって、血縁上の父親である久利生さえほとんど育児そのものには関われなかったのも事実だけどな。
しかしそのこと自体が役に立ってるとも言えるんだ。
水帆の場合でも、実際に彼女の世話をしているのはライラとオルトであり、名目上の両親である俺もシモーヌも、ほとんど関わることはできていない。
ただ、一歳四ヶ月を迎えようとしてる錬慈は、
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「ああそうだ。水帆だ。錬慈の妹だぞ」
俺は穏やかな表情を意識しつつ応える。すると彼も、
「みいちゃ! みいちゃ♡」
嬉しそうに足をバタバタさせて興奮する。血はまったく繋がっていなくても名目上でしかなくても、<自分の妹>のことが可愛くて仕方ないらしい。
「みいちゃ♡」
声を上げつつ錬慈自身も池に近付いて行って水面を叩いた。
「こらこら、そんな風にしたら水帆が怖がるだろ?」
俺は、強引にやめさせようとするわけじゃないが錬慈の体を支えて池に落ちないようにしつつ、諭すように声を掛けた。
もっとも、今はまだ、彼には十分に言葉の意味が理解できてないから、すぐには水面を叩くのはやめない。と、ミルク(メイガスに搾乳してもらった母乳を基にしたもの)を飲んでいた水帆が、
「……」
怒ったような困ったような表情になりつつ、錬慈を睨み付けた。
「!」
これには錬慈もハッとなって水面を叩くのをやめる。俺に咎められてもなぜ咎められているのかはまだ理解できないだろうが、水帆が不機嫌そうに睨み付けてきたことで、自分がマズいことをしていると感じたんだろう。
普段、俺もシモーヌも彼に対して不機嫌そうな表情をなるべく向けないように心掛けていることで、逆にそういう表情に敏感になっているんだろうさ。
これが普段から不機嫌そうな表情ばかり見せてたらむしろそれが<普通>になってしまって、本当に機嫌が悪いのかどうなのかも判然としなくなるだろうな。そういうメリハリが必要なんだと実感する。
光も灯も、何か諫めないといけないようなことがあった時には険しい表情を見せるだけで、自分が何かマズいことをしたと察してくれたよ。だから怒鳴ったり叩いたりする必要もなかった。
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