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第四世代

彗編 人間として生きるには必要

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新暦〇〇三八年一月十日



そろそろ清良せいらが臨月に入る頃か。さすがに明らかに腹が出てきてるのが分かる。とは言え、地球人のような感じで腹が大きくなるわけじゃない。さすがにそこまでいくと空を飛ぶことすらできなくなって危険すぎるだろうし。

これまでにも何度も触れたように、アクシーズは、母親が空を飛べなくなる可能性が出てきてしまうギリギリまで母胎内で育て、超低体重児の状態で出産、そこからは母親の胸にしがみついて乳を飲み続けて成長するわけだ。

だから、

『胎内に羊水や胎盤を抱えた状態で子供が大きくなるわけじゃない』

ということだな。羊水や胎盤が要らなくなる分だけ軽くできると。うん、実に合理的だ。それに、腹が大きくなると動きも鈍るし。で、子供を産んで自分の体にしがみつかせておけばいいのなら、万が一振り落とされて死んでも、

『弱い個体は生き残れない』

ってことにもできるわけだ。

ただしこれも『野生だから』という注釈付きではある。野生を捨てた地球人には当てはまらない。

『自力で生きられない弱い個体を生かしておくことに意味はない』

的な主張をするのも地球人にはいたが、いやいや、

<自力では生きられないが飛び抜けた才能を持っている者>

が現にいて、そのおかげで大きな利益を得たこともあったはずだけどな? 科学者とか技術者はもちろんとして、芸術関係でも、

<他者のサポートなしではまともに社会生活も送れない人格破綻者>

がいたという記録が残ってるぞ?

つまり人間の場合は、

<自力では生きられない個体>

であることと、

<当人が持っている才覚>

とは必ずしも一致しないということだ。飛び抜けた才覚を持つ個体が現れるにはそれだけ大きな<分母>が必要で、分母を減らせばそういう個体が現れる頻度も下がることは分かってるんだと。

事実、<人口爆縮>が起こった時には飛び抜けた才覚を持った人間が生まれることも減り、技術が停滞したとも記録にある。それまでに蓄積された技術を何とかやりくりすることで、<新しい発明>ではなく<既存の技術の改良>によって何とか維持したとも。

だから、

『目先の分かりやすい能力だけでは測れないこともある』

のは事実なんだろうさ。

野生で生きるにはそこまで必要ないかもしれないそれも、人間として生きるには必要ということだ。

『一部の人間の価値観だけで命の選別を行うのは、人間という種そのものを否定するのと同じ』

と言ってもいい。

『強度近視という身体障碍も、眼鏡という発明によって大きなハンデではなくなった』

わけだしな。

先天性疾患の治療も可能になってからは、そうやって疾患を克服した者の中からも大変な科学者や技術者が現れたりもしてるんだと。

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