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第四世代

彗編 それ自体が日常の一部

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新暦〇〇三七年十月七日



一般的なフィクションでは、<死>は大きなイベントの一つであって盛り上げるための演出を考えるものなんだろう。でもここじゃ、それ自体が<日常の一部>でしかないんだよ。<日常の光景>なんだ。本当に当たり前の、な。

ひそかじんふくようれん楼羅ろうらめいの時には俺にとって大事な家族だったから<日常の出来事の一つ>として受け流すことはできなかったものの、ほんたくかくたいについては、親戚関係とは言ってもやっぱり肉親とは違うもんな。

もっとも、たとえ肉親であろうとも、恨みや憎しみが根底にあったりしたら、悲しくもない気はするよ。それどころか、

『死んでくれて清々する』

とさえ思ってしまうことだってあるんじゃないか? 地球人社会でもそんなのは珍しくなかったんじゃないか?

実の肉親でそういうのは残念だよな。でもな、特に親が子供をきちんと人間として扱ってこなかったら、そんな風に思われても無理ないと思うぞ。

野生の動物と同じだな。野生の動物も、多くはたとえ肉親だろうと親子だろうと人間が思ってるほども情を感じてるわけじゃないのは事実だし。

そうだ。

『相手をきちんと人間として認めて接しないと、相手からも人間として接してもらえない』

ということだと思う。死んでも何とも思ってもらえないとか、むしろ当然だろう。人間として接してもらえなかったのなら。

ひかりあかりは、俺が死んだら悲しむかどうかまでは分からないものの、それなりに悼んではくれる気がする。錬慈れんじは、まだどうか実感はないか。でも、他の子供達はそこまで気にしないだろうな。なにしろ人間としての関係性じゃないから。

でも、それでいい。そういうものだと俺も承知してる。何だったらひかりあかり錬慈れんじにもそんなに悲しんでもらえなくても構わない。寂しいのは寂しいかもしれないが、地球人とは違ってるし、何より<俺とは別の人間>だ。必ずしも俺と同じ感覚や考えを持ってるわけじゃない。

それも事実だ。

事実を事実として受け止められないからつらくなる。苦しくなる。心を蝕まれる。精神を病む。泣こうが喚こうが現実は変えられない。だったら受け止めてしまった方が具体的な対処もできるようになるんじゃないかな。俺はそうしたいと思うんだ。

何より、この世界は人間を気遣っちゃくれないしな。個人を気遣ってくれるのは人間自身が作る社会だ。そういう社会を作ればこそ悲しみに暮れることもしてられるようになる。

今のここじゃ、長々と『悲しみに暮れる』なんてことをしてたらその間に命を落とすからな。

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