上 下
1,876 / 2,381
第四世代

彗編 混ざり合った感覚

しおりを挟む
新暦〇〇三七年七月九日



キャサリンの脱走癖は、

<構ってほしいという気持ちの表れ>

だと言ったが、実際にはたぶん、<自立心の表れ>でもあるんだろうなとも思ってる。どちらか一方だけじゃなく、両方が混ざり合った感覚だと思うんだよ。

人間というものを一面だけで理解しようとするのは危険だ。著名人にしたって、表に見せている姿と、普段は見せない姿は違っているのがむしろ当たり前だろう? そんな事例はいくらでもあったじゃないか。

『いかにも良い人そうに振る舞っている著名人が裏では』

なんて話もそれこそ枚挙に暇もない。だから俺のことさえ、家族や仲間を見捨てようとしない姿だけを見て<善人>だなんだと言うのもいるかもしれないが、俺は決して善人ってわけじゃないぞ。そんな風に見られるのはむしろ非常に不愉快でさえある。

だからって偽悪的に振る舞うつもりもないけどな。

とにかく、人間の心理ってのは単純じゃないんだよ。キャサリンの振る舞いだって一つの理由からだけで成り立ってるものじゃないはずだ。

そして今日も村を脱走した彼女の前に現れたもの。

オオカミ竜オオカミだ。若いオオカミ竜オオカミが、彼女の前に立ちふさがったんだ。おそらく巣立ったばかりの雄だな。

しかしその時、キャサリンと若いオオカミ竜オオカミの間に割って入るものがいた。

ドーベルマンMPMだ。機体番号は<十六>。当然、十六号機ということなわけだが、実際には<十六番目の機体>というわけじゃない。なにしろ夷嶽いがく戦の際に破壊されたドーベルマンMPM四機の使えるところを寄せ集めて修理され、その中で最も若い機体番号が改めて割り振られただけで。

それはもちろんこの十六号機だけじゃないんだが、実はなぜかキャサリンに気に入られていて、それで彼女のサポートとしてつけていたんだ。だから脱走についてもそんなに心配する必要もなかった。十六号機が常に彼女の姿を捉えていてくれていたし、いざとなればこうして守ってもくれる。

すると、

「……」

若いオオカミ竜オオカミは、<得体のしれない獣>二匹を前にして警戒したのか、踵を返して去っていった。もう少し間合いが詰められていたらキャサリンの方から飛び掛かっていただろうな。

彼女は、人間としての知性や理性も獲得しつつ、同時に<ヒト蜘蛛アラクネの近似種>にふさわしい凶暴性も兼ね備えている。<地球人そっくりな部分>についてはまだ十歳をようやく過ぎたくらいの少女のようにも見えつつ、たぶん、今の若いオオカミ竜オオカミくらいなら一人で対処できるだけの強さはあるだろう。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

レディース異世界満喫禄

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,209pt お気に入り:1,187

転生したら神だった。どうすんの?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:4,255

異世界のんびり料理屋経営

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:3,730

S級冒険者の子どもが進む道

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:451

ウィスタリア・モンブランが通りますよぉ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:48

不死の大日本帝國軍人よ、異世界にて一層奮励努力せよ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,215pt お気に入り:38

(自称)我儘令嬢の奮闘、後、それは誤算です!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:390pt お気に入り:3,340

処理中です...