1,850 / 2,644
第四世代
閑話休題 ドーベルマンMPM十六号機
しおりを挟む
ドーベルマンMPM十六号機は、かつて夷嶽の一件でも作戦に従事し、牙斬の一件の際にもビアンカと共に対応に当たった個体である。
厳密には夷嶽の攻撃で破壊されたドーベルマンMPMの無事な部分を寄せ集めた<四個一機体>でもあるが。その中で最も若い番号を改めて割り振られた個体だった。
とはいえ、ドーベルマンMPMには自我も個性もないので、番号はあくまで便宜上のものでしかない。
ないのだが、キャサリンはなぜかこの十六号機がお気に入りらしく、よく一緒にいるようだ。それもあって、<脱走癖>のある彼女のお守りとしてつけられていた。
そしてその日も、キャサリンは勝手に村を抜け出したのだった。
もっとも、それまでの彼女の脱走癖は、実は、
『構ってほしい』
という気持ちの裏返しだったようだが。特に母親であるビアンカが探しに来てくれると、嬉しそうに<鬼ごっこ>をしていた。まあ、大人であり軍人としてのスキルも持つビアンカ相手に逃げ切れるわけもなく、毎回、手加減してもらって一通り遊んで満足して捉えられ、村に連れ戻されるということを繰り返していただけでありつつも。
そんな彼女の傍に常に付き添っていたのが十六号機だった。
なので、それほど心配もなかった。ただの遊びの一環だった。そんな遊びを繰り返すうちに、キャサリンには、<世界>に対する関心が芽生えていったようだ。
どこまでも果てしなく広がる草原。はるか遠くに見える地平線。その先に何があるのか、彼女は興味を持ってしまったらしい。
だから村から抜け出したのだ。抜け出して、いつもより遠くまでやってきた。それまでは母親に追いかけてきてもらうために敢えて村が見える位置までしか行かなかったのに、今回は完全に村が見えなくなるまで離れた。距離にして約二キロ。
それをビアンカが追う。追うが、十六号機がキャサリンと共にいることは分かっているので、それほど焦ってはいなかった。十六号機のカメラもしっかりとキャサリンの姿を捉えている。
もし見失っても、ビクキアテグ村の住人には全員、チップが付けられていて、必要とあらば位置を検索することもできた。特にキャサリンのようにして勝手に遊びに出てしまう子のためだったが、安全保障上有効だということで全員が付けることになったものだった。
『こんな遠くまで……』
ビアンカはキャサリンを追いながらそう思い、同時に、娘の成長を実感した。単に構ってほしくて脱走したわけじゃないのを察していた。
そんな母親に代わって、十六号機はキャサリンを見守っていたのだった。
厳密には夷嶽の攻撃で破壊されたドーベルマンMPMの無事な部分を寄せ集めた<四個一機体>でもあるが。その中で最も若い番号を改めて割り振られた個体だった。
とはいえ、ドーベルマンMPMには自我も個性もないので、番号はあくまで便宜上のものでしかない。
ないのだが、キャサリンはなぜかこの十六号機がお気に入りらしく、よく一緒にいるようだ。それもあって、<脱走癖>のある彼女のお守りとしてつけられていた。
そしてその日も、キャサリンは勝手に村を抜け出したのだった。
もっとも、それまでの彼女の脱走癖は、実は、
『構ってほしい』
という気持ちの裏返しだったようだが。特に母親であるビアンカが探しに来てくれると、嬉しそうに<鬼ごっこ>をしていた。まあ、大人であり軍人としてのスキルも持つビアンカ相手に逃げ切れるわけもなく、毎回、手加減してもらって一通り遊んで満足して捉えられ、村に連れ戻されるということを繰り返していただけでありつつも。
そんな彼女の傍に常に付き添っていたのが十六号機だった。
なので、それほど心配もなかった。ただの遊びの一環だった。そんな遊びを繰り返すうちに、キャサリンには、<世界>に対する関心が芽生えていったようだ。
どこまでも果てしなく広がる草原。はるか遠くに見える地平線。その先に何があるのか、彼女は興味を持ってしまったらしい。
だから村から抜け出したのだ。抜け出して、いつもより遠くまでやってきた。それまでは母親に追いかけてきてもらうために敢えて村が見える位置までしか行かなかったのに、今回は完全に村が見えなくなるまで離れた。距離にして約二キロ。
それをビアンカが追う。追うが、十六号機がキャサリンと共にいることは分かっているので、それほど焦ってはいなかった。十六号機のカメラもしっかりとキャサリンの姿を捉えている。
もし見失っても、ビクキアテグ村の住人には全員、チップが付けられていて、必要とあらば位置を検索することもできた。特にキャサリンのようにして勝手に遊びに出てしまう子のためだったが、安全保障上有効だということで全員が付けることになったものだった。
『こんな遠くまで……』
ビアンカはキャサリンを追いながらそう思い、同時に、娘の成長を実感した。単に構ってほしくて脱走したわけじゃないのを察していた。
そんな母親に代わって、十六号機はキャサリンを見守っていたのだった。
0
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説


Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる