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第四世代

光編 母親の恐ろしい一面

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たまたま通りがかったアクシーズが萌花ほのかを襲おうとしたところへ、ひかりが颯爽と駆け付けた。ただ、ひかり本人は、

『まさか当たるとは思わなかった……』

と思ったそうだ。いくらたまに練習していると言っても、銃の腕そのものは素人に毛が生えた程度だからな。

なお、普段から身に付けている拳銃には、万が一の暴発に備えてというのもあって、スタン弾が装填されている。だからアクシーズも、致命傷は受けなかった。しかも、完全に直撃というわけではなく、脇腹に当たったようで、痛みはあるものの、俺が初めてふくと出逢った時に腹にスタン弾を食らわしてしまったのと違って動けなくなるほどじゃなかったらしい。

脇腹を抱えつつも、

「キシャーッッ!!」

歯を剥き出して威嚇してきた。恐ろしい形相だ。

しかし、ひかりはそれを恐れない。

「……!」

躊躇なく飛び込んでいって防弾防刃グローブを付けた拳で殴り掛かる。

「ギッッ!?」

これにはアクシーズも驚いたらしい。毛のないパパニアンの子供とおかしな色をしたパパニアンだと思っていたら襲い掛かってきたんだから、当然か。パパニアンはこういう時、基本的には逃げるし、逃げないとしてもあくまで威嚇するだけだ。威嚇して隙を見て逃げるのが普通の対応だった。真っ向戦って勝てる相手じゃないことをよく知ってるからな。

思わぬ反撃にアクシーズは飛び退いて別の枝に掴まる。その上で改めて、

「シャーッッ!!」

と威嚇。

なのにそれに対しても、

「……」

ひかりはあくまで無言のまま枝を蹴ってアクシーズに殴り掛かる。

「ギイッッ!?」

自分の威嚇をまったく恐れずに襲い掛かってくる相手に、若いアクシーズは恐怖を覚えたのかもしれない。渾身の力を込めて全身のバネを使って木の枝のしなりも活かして高々と真上に跳躍、ひかりの拳をかろうじて躱して飛び去った。

彼女が一切容赦のない攻撃を加える気迫を見せたことで、アクシーズも<戦略的撤退>を選択できたのかもしれない。ここで中途半端に手加減しようとしていたら向こうも反撃を試みて、余計にダメージが大きくなっていた可能性もあるだろうな。

『初手で最大の攻撃を行うのが結果的に被害を少なくする』

という典型例かもしれない。

それがいずれにせよ、萌花ほのかにとっては、

<母親の恐ろしい一面>

を垣間見る機会にはなったようだ。普段はとても穏やかで懐の広い母親が、外敵を相手に般若の表情で殺意の塊になっていたんだ。そりゃ怖いさ。

「怪我はない?」

いつもの穏やかな表情に戻って問い掛ける母親に、萌花ほのかは、

「うん……!」

背筋をピンと伸ばして強張っていた。そして自分が勝手なことをしたのが原因だと察したらしくてな。

だからわざわざこの上で叱る必要なんてなかった。当人がもう反省してるのにそれに重ねる意味があるか?

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