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第四世代

光編 基礎を築くだけでいい

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新暦〇〇三七年三月二十日



こうしてルイーゼは、アリニドラニ村に腰を据えて鉱物の研究に打ち込むことになった。というのも、アリニドラニ村自体が、

<巨大なスカルン鉱床>

の上にある可能性が高まったんだ。様々な鉱物が砂に含まれていることは以前から分かっていたものの、まさかそこまでとは予測していなかった。

ただ、あまり大規模に採掘を行うといろいろ不具合が出てくる可能性もあるからな。あくまで先に見付かったスカルン鉱床をメインとして、こちらについては当面の間は<試掘>にとどめることにする。

なにも無理して採掘しなくても現状では十分間に合ってるわけで。

また、<Hiシリコンの同位体>も土壌に大量に含まれている可能性も高く、そちらは村に影響がない範囲で表層部分のみの採掘という形をとることにする。

それらの判断も、ひかりが行ってくれた。俺はあくまで最終責任者として追認しただけだ。

「今の時点では環境負荷を第一に考えて必要最小限にとどめるということでいいんだよね?」

そう確認してくれる彼女が本当に頼もしい。

「ああ、その通りだ。いずれそれだけでは済まなくなってくるかもしれないにしても、それはその時点でまた考えるべきことだからな。俺達は基礎を築くだけでいい」

きちんとその辺りについても認識を共有しておく。この辺りもかつての地球では不十分だったことで大変な問題に繋がったというしな。

加えて、<自分の手柄>ってものに拘泥してそれ以外のことを蔑ろにしていた面もあったとも聞く。

ああそうだ。<自分の手柄>ってのが何よりも優先されることで被害を生んでいたわけだ。でも、なんでだ? なんで自分や自分の子孫の首を絞めることになるのに目先の手柄ばかりを優先する? そんなに自分の価値に自信がないのか? 手柄を立てないと自分に価値がないと思うのか? そもそも<価値>ってなんなんだ? 

俺はここで遭難して、そして根を下ろして、ひそかじんふくようやシモーヌとの間に子供を迎えて、育てて、さらに娘の一人であるめいの命を見送って、だがそこに<俺の価値>なんてものはまったく見いだせなかったぞ? 価値なんてものに拘らなくても命はここにあって、懸命に生きて、やがてこの世界そのものに還っていくんだ。

それで何が問題だ? 俺はこんな楽しい毎日はないけどな。たくさんの命に囲まれて、その中で自分も生きて、楽しんで、いつか来る終わりに向けて悔いのないように過ごそうと思うだけだ。

どうせどれだけの財を築こうとも、それを持っていくことはできないんだし。

なら、ただ自分の命を、人生を、穏やかに満喫すればそれでいいじゃないか。

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