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第四世代

光編 火花

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新暦〇〇三七年三月十四日



錬慈れんじが生まれて四ヶ月。

萌花ほのかは二歳半。外見上は六歳くらい。

メイは満一歳。外見上は三歳になるかどうかくらい。

それぞれ健康に順調に育ってくれてる。成長のスピードは違っても、それは何の問題にもならない。こっちがわきまえてればいいだけの話だ。

地球人には、他者が自分より幸せそうにしていると、

『幸せそうな姿を見せ付けられた!』

とか言ってキレ倒すのもいたらしいが、いやいや、他所様には何の関係もない話だからな? 錬慈れんじの成長速度が遅いのだって、萌花ほのかやメイにとっては何の関係もない話だ。二人の成長を妬む理由も、俺にもシモーヌにもない。

二人に比べて成長が遅いという点で不利に働く可能性も確かにゼロじゃないが、そこは大人がフォローすれば済む話だろ。社会の仕組みとして、

『種族によって成長の速度に大きな差がある』

という前提をあらかじめ組み込んでおけばいいだけだろう?

それに、体の大きさは違っていても、実際の知能そのものはおおむね年齢相応だったりするし、メイに至ってはまだ一切、言葉らしい言葉を口にしない。これは<マンティアンとしての形質>だ。対して錬慈れんじは、<クーイング>や<喃語>と呼ばれる発声をしきりに行うようになってきた。

「むー……あ、うあ……? う~」

俺やシモーヌの顔を見て手を伸ばしつつ、話し掛けようとしてくれてる。

「はあい、なにかな?」

「う~、ですか? そうですか♡」

我が子の愛らしさの前に目尻が垂れ下がりまくったデレッデレの様子で、俺もシモーヌも声を上げる。

その一方、ルイーゼは、斗真とうまが鉄を鍛えている様子を、離れたところから見学するようになっていた。彼が鎚を振る度に飛び散る火花を、それこそ花火にでも見入っているかのようにうっとりと。

「多数破裂三段咲き……炭素含有量コンマ四パーセント……」

などと呟きながら。

鉄に含まれる炭素や不純物の量や材質によって火花の形が変わるそうだ。だから斗真とうまが鉄を打ち、不純物を追い出していくことで、徐々に火花の形が変わっていく。ルイーゼにはその変化が途轍もなく美しいものに見えているらしいな。

意味が分かるからこそ価値を見出せるという典型か。

俺には違いがまったく分からない。そしてひかりにもピンとこないそうだ。

けれど、自分にはその価値が分からないからといって軽んじるということをひかりはしない。バカにしたりしない。

『自分にとって価値が分からない=無価値』

ということじゃないのを分かってくれてるんだ。

親として誇らしいよ。

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