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第四世代

光編 斗真とルイーゼ

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こうして出逢った斗真とうまとルイーゼだったが、お互いにそこまで強く意識している風ではなかった。斗真とうまの方は見慣れない余所者として警戒はしつつ、それ以上の存在ではなかったし、ルイーゼの方も、

『そういう人間がいる』

というのは知っていた上に、人間には特に興味を持っていなかったことで、スルーしていたようだ。

彼女の興味の対象はあくまで鉱物や鉱物資源であり、邪魔さえされなければ人間に対しては基本的に関心も示さない。

なので、まずは村の麓で調査を行うだけだった。

いやはや、本当に徹底しているな。

だが、麓での調査を終えると、

「村の中を調べたい」

ということで、ローバーは麓に止めた状態で、桜華おうか及び高仁こうじんを伴って村に向かって歩き出した。

それでいて、途中で気になる石を見付けるとその場にしゃがみこんで手に取ってじっくりと眺めるから、村に入るまでだけでも二時間かかった。すでに日が暮れてきている。

すると、斗真とうまが今日の作業を終えて、工房から出てきた。その手には、今日の分の鉄のインゴット。

彼自身が何度も鎚を振るって鍛え上げた<鋼>だ。

と、それを見たルイーゼが、視線を止める。そして、

「綺麗……」

呟いた。斗真とうまが手にしていたインゴットを食い入るようにして見詰めている。

しかも、

「ね、それ、見せて……」

まさか彼女の方からそんなことを。

「……」

よもやの申し出に斗真とうまは戸惑い、ドラニに視線を送った。どう対処すればいいのかが分からなかったんだろう。彼はこれまで、ずっと、他の人間どころか同じルプシアンとさえ交流を持たずに生きてきたんだ。無理もないか。

「見せてやればいい。お前のすべてを込めて打った鋼だ。どこに出しても恥ずかしくない逸品だ」

本当に<父親>にして<鍛冶の師>としてドラニが告げる。それを受けて斗真とうまも、

「……」

黙ったまま自身が打った鋼を差し出した。

「ありがとう……」

ルイーゼはまるで宝石でも手にするかのように恭しく受け取り、

「はあ……本当に素敵……こんなきれいな鋼、初めて見た……」

うっとりと魅入った。彼女の目には、斗真とうまが丹精込めて鍛えたそれが織りなす<組織>が、<美しい模様>として見えているらしい。

俺にはそれこそただの鉄のインゴットにしか見えないんだが、ルイーゼには半端な宝石以上に美しく見えるんだとか。

そして、斗真とうまが鍛えた鋼に見惚れているルイーゼ自身も、何とも言えない色香を放っているように思えた。

それに斗真とうまも、見入っていたようだ。

んん? これは……?

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