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第四世代

光編 鉱物資源の調査

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新暦〇〇三六年十二月二十九日



そんなこんなで鉱物資源の調査に出たルイーゼは、彼女専用となったローバーを拠点に、まずは川の周辺で鉱物の採集を始めたようだ。川では、水の流れで運ばれてきた鉱物が豊富に見付かるからな。その様子を、俺も、錬慈れんじの世話で朦朧としつつ高仁こうじんのカメラ映像を映しているタブレットを通じ見守る。

俺が見ているものと同じ映像をひかりも、俺の代わりにデータの整理をしながら見てくれている。その上で、遊び疲れた萌花ほのかが甘えてくると作業を中断。抱きしめた上で絵本などを読んでくれる。だから萌花ほのかは自分の母親に愛されていることを微塵も疑っていない。不安を覚えていない。自分がこの世に生まれてきたことをとても楽しんでくれている。

ここに生じる社会においては、

『自分が生まれてきたことを楽しめる』

ことを第一義としたいと俺は思ってる。しかしそれは決して、他者を虐げることによって為されることじゃない。地球人社会においては自身の欲求ばかりを一方的に叶えようとして他者を蔑ろにするという行為が横行した。それが結局、無数の不幸を生み出してきたことは、歴史が証明している。そのこと自体はすでに判明し、断定されているんだ。

なのに人間(地球人)は、六十世紀になってもなお、

<自分の欲求だけを優先したいという悪癖>

を完全には克服できずにいた。これは、一度定着したそれを根底から払拭することの難しさも表していると言われている。

なら、せっかく新しく出来上がっていく社会においてはそもそも、

<自分だけが優先されて優遇されて当たり前という感覚>

自体が定着しないように気を付けなきゃと思っている。それには、新しい命が生まれてくる段階で、

『子供をこの世に送り出すのは、百パーセント親の勝手』

『子供に対し事前にそのことを確認したという事実は存在しない』

『子供をこの世に送り出したのは親の一方的な勝手なのだから、その子供を養育するのは親自身の行いの尻拭いでしかなく、恩を売れるようなことじゃない』

という感覚が徹底されている必要があるだろうな。何しろ、

『当人に承諾ももらっていないのに勝手に生んでおいて恩を押し付ける』

などという、

<卑劣極まりない狡さ>

を親が子供に学ばせてしまっては、後はもういくらでも<狡い理屈>をこじつけることができてしまうしな。

それこそ、

『<神>というその実体を観測することもできない存在に責任を擦り付けることでいくらでも悪逆非道な行いを正当化できる』

なんて<究極の狡さ>まで人間(地球人)は発明してしまったんだし。

それに比べれば、ルイーゼに鉱物資源の調査の自由を与えるくらい、他者を虐げるどころか大きな利に繋がることだろ。

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