1,739 / 2,644
第四世代
閑話休題 ドーベルマンMPM二十一号機
しおりを挟む
ドーベルマンMPM二十一号機はその日、いつも通り畑を管理するために夜明けとともに起動した。だがその日は、いつもと違っていた。
待機用の小屋の前に何者かがいる気配。
畑の作物におびき寄せられた草食動物や、草食動物を獲物とする肉食動物が近付いてくることは珍しくなかったが、どうも、そういうのとも違う印象。
なのでドアに設けられた覗き窓を開けて外の様子を窺うと、そこには、フレンチブルドッグほどの大きさの獣の姿。猪竜だった。だが、小さい。どうやら幼体のようだ。
生まれたばかりというわけではないが、それでも、巣立ちにはまだまだ早いという印象がある。親とはぐれたのだろうか。もしくは親が、オオカミ竜やレオンなどの天敵によって狩られ、子供だけが生き延びてしまった事例の可能性もある。
地球人はそういうものを『可哀想』と感じるだろうものの、ここではそれ自体が摂理というものだ。それにある程度は育っているので、猪竜は決して弱い獣ではなく、十分に育った個体であれば、天敵であるはずのオオカミ竜やレオンさえ退けることもある猛獣である。
ゆえに、二十一号機としても<保護すべき対象>としては判断できず、ただ成り行きを見守ることにした。
だが、その猪竜の幼体は、二十一号機がドアを開けて外に出てきても、後ろに跳び退いた上で左右にぴょんぴょんと跳ねる動きをしただけで、逃げていくことはなかった。
獣の多くは、二十一号機を含むロボットを見ると強く警戒して距離を置くのが普通だった。なのにこの猪竜の幼体は、距離を置くどころか二十一号機の周囲を、まるで構ってもらおうとでもするかのように駆け回る。
いや、『かのように』ではなく、構ってもらおうとしていたのだろう。
二十一号機の方も、相手をするわけではなかったがそれほど邪魔になるわけでもないので、好きにさせておいた。
畑を荒らされても、そもそもが、草食動物らをおびき寄せるのと餌を確実に確保させることで数を増やさせるのとを目的に作っている畑であり、特に問題もなかった。
こうしてその猪竜の幼体は、まるで二十一号機が親であるかのように傍にいるようになった。
だが、数日が経つと、その猪竜の幼体の姿が見えなくなった。
というのも、レオンに狩られてしまったのだ。他の、畑におびき寄せられた草食動物らと同じように。
けれど、二十一号機はそれを悲しむでもなく、残念がるでもなく、ただそれまでと同じように畑を耕し、野菜を育てた。
それが役目であったからだ。
切ないと言えば切ないこの出来事も、ここではごく当たり前の日常の一コマに過ぎなかったのだった。
待機用の小屋の前に何者かがいる気配。
畑の作物におびき寄せられた草食動物や、草食動物を獲物とする肉食動物が近付いてくることは珍しくなかったが、どうも、そういうのとも違う印象。
なのでドアに設けられた覗き窓を開けて外の様子を窺うと、そこには、フレンチブルドッグほどの大きさの獣の姿。猪竜だった。だが、小さい。どうやら幼体のようだ。
生まれたばかりというわけではないが、それでも、巣立ちにはまだまだ早いという印象がある。親とはぐれたのだろうか。もしくは親が、オオカミ竜やレオンなどの天敵によって狩られ、子供だけが生き延びてしまった事例の可能性もある。
地球人はそういうものを『可哀想』と感じるだろうものの、ここではそれ自体が摂理というものだ。それにある程度は育っているので、猪竜は決して弱い獣ではなく、十分に育った個体であれば、天敵であるはずのオオカミ竜やレオンさえ退けることもある猛獣である。
ゆえに、二十一号機としても<保護すべき対象>としては判断できず、ただ成り行きを見守ることにした。
だが、その猪竜の幼体は、二十一号機がドアを開けて外に出てきても、後ろに跳び退いた上で左右にぴょんぴょんと跳ねる動きをしただけで、逃げていくことはなかった。
獣の多くは、二十一号機を含むロボットを見ると強く警戒して距離を置くのが普通だった。なのにこの猪竜の幼体は、距離を置くどころか二十一号機の周囲を、まるで構ってもらおうとでもするかのように駆け回る。
いや、『かのように』ではなく、構ってもらおうとしていたのだろう。
二十一号機の方も、相手をするわけではなかったがそれほど邪魔になるわけでもないので、好きにさせておいた。
畑を荒らされても、そもそもが、草食動物らをおびき寄せるのと餌を確実に確保させることで数を増やさせるのとを目的に作っている畑であり、特に問題もなかった。
こうしてその猪竜の幼体は、まるで二十一号機が親であるかのように傍にいるようになった。
だが、数日が経つと、その猪竜の幼体の姿が見えなくなった。
というのも、レオンに狩られてしまったのだ。他の、畑におびき寄せられた草食動物らと同じように。
けれど、二十一号機はそれを悲しむでもなく、残念がるでもなく、ただそれまでと同じように畑を耕し、野菜を育てた。
それが役目であったからだ。
切ないと言えば切ないこの出来事も、ここではごく当たり前の日常の一コマに過ぎなかったのだった。
0
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。





てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる