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第四世代

シモーヌ編 風から守るための装備

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新暦〇〇三六年七月十日



そうして日々を穏やかに過ごしている間にも、シモーヌの胎内に宿った命は、順調に育っていった。

「見る?」

妊娠十週目に入った時に彼女がそう言ったものだから、俺も、

「ああ、見せてもらおうかな」

と応えさせてもらった。苦手な人間には無理かもしれないが、俺も地球人社会で暮らしていた頃には『ちょっと遠慮したいな』と思ってしまっていたかもしれないが、ここで無数の命の営みを見届けてきた今ではそんなに抵抗もない。

……いや、ちょっと違うかな。妹が、光莉ひかりが怪物のように変化していく姿を日々目の当たりにした頃にはもう、そういうものと向き合っていける素地はできていたんだろう。だからここで遭難して諸々とんでもないものと触れ合ったり目撃したりしても大丈夫だったのかもしれない。

でも、だからって、

『厳しい環境に置いた方が強くなれる!』

なんて典型的な素人考えは持たない。持ちそうになる自分を甘やかさない。

『厳しさを撥ね退けられる者こそが成功する!』

的な精神論は地球人社会にはありふれていたが、こうして実際に自然の間近で生きていると、地球人の思う<心の強さ>や<気合>や<気魄>なんてものがいかに気休めに過ぎないかはよく分かる。絶対的な力の差がある外敵を前にすればそんなもの、強風の前のロウソクの炎のようなものだ。風から守るための装備がなければなんの役にも立たない。

<風から守るための装備>

それこそが、自分を労ってくれたり慮ってくれたりする身近な者の存在だな。これがあってようやく人間は自我を保つことができる。厳しいだけの環境に放り出されればもはや人間性を保つことさえままならなくなるのが現実だろう。

<人間>というのはそういう生き物なんだよ。

だから俺も、シモーヌの胎内で、まるでモグラのような姿ながら、小さな手足を動かして、外に出た時に備えて練習しているような様子を見せる我が子を見守りつつ、

「ありがとう、シモーヌ。愛してる」

彼女のことも労う。

「うん……」

こういうことの積み重ねが、人間関係ってものを作り上げていくはずだ。

なんでも一足飛びに自分の思い通りになってもらおうなんて考える方がどうかしている。それは紛れもない<甘え>だ。

自分の思い通りにならないこの世において、他者からの労いや気遣いは<安らぎ>となって精神を支えてくれる。俺はその当たり前のことを実践しようとしてるに過ぎない。

そして現在。小さいながらもかなり人間っぽくなった我が子とそれを守ってくれているシモーヌを、俺は労わるだけだ。

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