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第四世代

シモーヌ編 期待と落胆

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実際、河に落雷があったからといって必ずあの不定形生物が決まった形を持つわけじゃないのは分かってる。落雷した場所のすぐ近くにいなければダメなのはもちろん、他にも条件はあるのかもしれない。

だから今回、何もなかったのはむしろ当然だ。何もない場合の方が確実に多いはずなんだ。

と、自分に言い聞かせる。そしてそれは、シオも同じようだった。ただし彼女の場合だと、

『レックスが現れてくれるかもしれない……』

そんな期待を込めたものだろうから、俺のそれと違って、<落胆>というニュアンスが強いものだろうが。

これは、シモーヌも同じだった。

「私も、レックスが現れることをずっと期待してた……錬是れんぜには悪いけどね」

困ったような寂しいような笑みを浮かべながらそう言う。けれど俺は、

「いや、別に俺に遠慮することはないさ。そう思ってしまうのは当然のことだと俺も感じるしな」

そうだ。シモーヌは、地球人社会での解釈からすれば<人間>じゃないとしても少なくとも俺は彼女を人間だと思ってるから、人間として接すればこそ、そんな感情を抱いてしまうこともあって当然だと考えてるんだ。

『人間というのは、常に自分にとって都合のいい存在でいてくれることはない』

その事実を理解してないと生きるのもつらいだけだ。そもそも自分にとって都合がいいわけじゃないんだから、過剰な期待をするのは正しくないし、勝手に期待しておいて自分の思い通りにならなかったからといって『裏切られた!』なんて考えるのはそもそも筋違いだからな。

そんな風に勝手に自分に期待して思い通りにならなかったら『裏切られた!』とかキレられるなんて、迷惑以外の何ものでもないだろう。自分に当てはめて考えてみれば分かるはずだ。

勝手に思いを寄せられてそれに応えなかったからといって恨まれるとか、納得できるか? できないだろう? そういうことだ。

シモーヌを愛しているのはあくまで俺自身の個人的な気持ち。彼女がレックスのことを忘れられないとしてもそれはシモーヌ自身の気持ちであって俺のものじゃない。その当たり前の事実を俺は理解してるだけだよ。

以前にも触れたが、

<レックスや瑠衣るいを愛しているシモーヌ>

を、俺は愛しているんだ。誰かを愛するというのは、そういうことのはずだ。

だとすれば、まだ顕現して間もないシオがレックスを想って、彼が現れることを期待するなんてのは、何も不自然なことじゃないさ。

そんなこんなもありつつ、天候が回復してきたのを見計らって、アリアンを派遣し、サルベージされたホビットMk-Ⅱを回収してもらったのだった。

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