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第四世代
シモーヌ編 難癖を付けなきゃいけない理由
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新暦〇〇三六年四月二日
こうして蒼穹を新しく迎え、俺達は晴れやかな気持ちになっていた。
俺とシモーヌが寝てる間に、改めて蒼穹のお披露目も済んで、皆が灯を労ってくれた。
そうだ。これが俺達の<当たり前>なんだ。新しい命を迎えたことについて難癖をつける者はいないし、そんなものを付けなきゃいけない理由を持っている者もいない。
この、
『難癖を付けなきゃいけない理由を持ってる者がいない』
ことが大事なんだよ。正直、シオが今はその<理由>を持っている可能性が一番高かったけどな。
シオにとってシモーヌは、ある種の<裏切者>だと思う。愛しているはずのレックスや瑠衣を差し置いて俺と結婚し、俺の娘である灯の母親代わりとなったシモーヌは、な。
それでも彼女は、惑星探査任務という重大な役目を任されるような、厳選された優秀な人材だ。目先の感情で好ましくない判断をして仲間を危険に曝すようなタイプでないことは保障されている。だが、それでも人間というのは完璧ではいられない。ましてや、
『未知の惑星で遭難し、得体のしれない存在に襲われて命を落とし、かと思うとデータヒューマンとしてシミュレーションの中で子供を生んで、与えられた状況の中で幸せに暮らしていこうとしていた矢先に透明な体を持った<コピー>としてこの世界に舞い戻ってきた』
などという、あまりに異様な状況に置かれて本当に冷静でいられる人間なんて滅多にいないだろう。シモーヌもそうだったし、ビアンカも今の自分を受け止めるには時間を要した。久利生でさえ、内心では動揺していたそうだ。そんな状態の人間に、
『普通でいろ!』
なんてのはそれ自体がもう無理難題だし暴言というものだと思う。自分が同じ状況になって冷静でいられると思うのか? 俺だって冷静でいられる自信なんかない。
そういうことなんだよ。
だからこそ、今のシオには丁寧なケアが求められてる。灯に八つ当たりしないでいてくれたのはさすがだが、それで安心してはいられない。
「シオ様。お食事です」
私室で資料を読み耽っていた彼女に、桜華がタブレット越しにそう告げる。
「ありがとう。どうぞ」
シオもそう応え、私室のドアを開ける。すると、トレイを手にした桜華が部屋に入ってきて、テーブルの上にそれを置いた。
「本日のメニューは、プラントで採れた温野菜のサラダと川魚のカルパッチョです」
ここではそれこそ定番のメニューだった。俺も散々食べたものだ。エレクシアに作ってもらってな。
「いただきます」
言いつつ手を合わせたシオが、まず川魚のカルパッチョを口に運ぶと、
「ん、美味しい!」
驚いたように声を上げたのだった。
こうして蒼穹を新しく迎え、俺達は晴れやかな気持ちになっていた。
俺とシモーヌが寝てる間に、改めて蒼穹のお披露目も済んで、皆が灯を労ってくれた。
そうだ。これが俺達の<当たり前>なんだ。新しい命を迎えたことについて難癖をつける者はいないし、そんなものを付けなきゃいけない理由を持っている者もいない。
この、
『難癖を付けなきゃいけない理由を持ってる者がいない』
ことが大事なんだよ。正直、シオが今はその<理由>を持っている可能性が一番高かったけどな。
シオにとってシモーヌは、ある種の<裏切者>だと思う。愛しているはずのレックスや瑠衣を差し置いて俺と結婚し、俺の娘である灯の母親代わりとなったシモーヌは、な。
それでも彼女は、惑星探査任務という重大な役目を任されるような、厳選された優秀な人材だ。目先の感情で好ましくない判断をして仲間を危険に曝すようなタイプでないことは保障されている。だが、それでも人間というのは完璧ではいられない。ましてや、
『未知の惑星で遭難し、得体のしれない存在に襲われて命を落とし、かと思うとデータヒューマンとしてシミュレーションの中で子供を生んで、与えられた状況の中で幸せに暮らしていこうとしていた矢先に透明な体を持った<コピー>としてこの世界に舞い戻ってきた』
などという、あまりに異様な状況に置かれて本当に冷静でいられる人間なんて滅多にいないだろう。シモーヌもそうだったし、ビアンカも今の自分を受け止めるには時間を要した。久利生でさえ、内心では動揺していたそうだ。そんな状態の人間に、
『普通でいろ!』
なんてのはそれ自体がもう無理難題だし暴言というものだと思う。自分が同じ状況になって冷静でいられると思うのか? 俺だって冷静でいられる自信なんかない。
そういうことなんだよ。
だからこそ、今のシオには丁寧なケアが求められてる。灯に八つ当たりしないでいてくれたのはさすがだが、それで安心してはいられない。
「シオ様。お食事です」
私室で資料を読み耽っていた彼女に、桜華がタブレット越しにそう告げる。
「ありがとう。どうぞ」
シオもそう応え、私室のドアを開ける。すると、トレイを手にした桜華が部屋に入ってきて、テーブルの上にそれを置いた。
「本日のメニューは、プラントで採れた温野菜のサラダと川魚のカルパッチョです」
ここではそれこそ定番のメニューだった。俺も散々食べたものだ。エレクシアに作ってもらってな。
「いただきます」
言いつつ手を合わせたシオが、まず川魚のカルパッチョを口に運ぶと、
「ん、美味しい!」
驚いたように声を上げたのだった。
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