1,662 / 2,625
第四世代
シモーヌ編 瑠衣
しおりを挟む
『レックスのことは大切だけど、彼はここにはいないんだ……』
それが事実だった。それが大前提だった。正直なところ、それ以外はまあ、あくまで<補足>でしかないだろう。
確かに、シモーヌがこうして二人も顕現したように、待っていれば十枚アレクセイも顕現したかもしれない。それを待ってもよかったかもしれない。実際、シモーヌは口にした。
「私もね、最初の頃はレックスが現れてくれることを期待してたんだ……理論上は彼が現れる可能性は確かにある。数値上の確率は決してゼロじゃない。だから待った。二十年待った。だけど、彼は現れなかった……その二十年、私の傍にいてくれたのは、私を支えてくれたのは、錬是だったんだ。錬是は二十年の間、私の<良き隣人>でいてくれた。それに気付くと、もう、自分の気持ちにも区切りをつけるべきだと思ったんだよ……」
そう話す彼女を、シオは真っ直ぐに見つめていた。その彼女の表情にも、様々な感情がよぎるのが俺には分かってしまった。
「……」
何かを口にしようとして、でも飲み込んで、口にしようとしたことを自分の中で改めて咀嚼して、今の自分とは違う判断をした<二十数年後の自分>に届く言葉を紡ごうとしているんだろうなというのが察せられる。そして、
「……!」
何かに気付いたようにハッとなったのが分かった。いや、『思い出した』、か。その直後、
「瑠衣に申し訳ないとは思わないの……?」
と、送り出すように丁寧にはっきりとそうシモーヌに告げた。その口ぶりに、
「思い出したの……? あの不定形生物の中でのこと……」
シモーヌも察したように問い返し、シオも頷く。
やっぱりか。あの不定形生物の中の世界で瑠衣を生み、十枚アレクセイと共に家族として過ごした時間を思い出したからこそ、瑠衣のことが口に出てしまったんだろう。それが今のシオの正直な気持ちだと伝わってくる。
だが、シモーヌは言うんだ。
「そうね。瑠衣には申し訳ない気持ちもある。だけどそれでもやっぱり、二十年という時間は大きかったかな。だって、私にとっての瑠衣はもう、二十代の立派な<大人>だから……」
「……!」
ああそうだ。シオにとっての瑠衣はまだ幼い子供かもしれないが、シモーヌにとっての瑠衣は、俺との結婚を決意した時点でもう二十代半ばになってる感覚なんだ。自分のことを自分で決められる、自分の人生を自分で生きられる。
まあ実際には、地球人社会においては三十までは子供みたいな感覚ではあったものの、法律上は一応、<成人>ではある。シモーヌは少なくともそれまでは待ったんだよ。
それが事実だった。それが大前提だった。正直なところ、それ以外はまあ、あくまで<補足>でしかないだろう。
確かに、シモーヌがこうして二人も顕現したように、待っていれば十枚アレクセイも顕現したかもしれない。それを待ってもよかったかもしれない。実際、シモーヌは口にした。
「私もね、最初の頃はレックスが現れてくれることを期待してたんだ……理論上は彼が現れる可能性は確かにある。数値上の確率は決してゼロじゃない。だから待った。二十年待った。だけど、彼は現れなかった……その二十年、私の傍にいてくれたのは、私を支えてくれたのは、錬是だったんだ。錬是は二十年の間、私の<良き隣人>でいてくれた。それに気付くと、もう、自分の気持ちにも区切りをつけるべきだと思ったんだよ……」
そう話す彼女を、シオは真っ直ぐに見つめていた。その彼女の表情にも、様々な感情がよぎるのが俺には分かってしまった。
「……」
何かを口にしようとして、でも飲み込んで、口にしようとしたことを自分の中で改めて咀嚼して、今の自分とは違う判断をした<二十数年後の自分>に届く言葉を紡ごうとしているんだろうなというのが察せられる。そして、
「……!」
何かに気付いたようにハッとなったのが分かった。いや、『思い出した』、か。その直後、
「瑠衣に申し訳ないとは思わないの……?」
と、送り出すように丁寧にはっきりとそうシモーヌに告げた。その口ぶりに、
「思い出したの……? あの不定形生物の中でのこと……」
シモーヌも察したように問い返し、シオも頷く。
やっぱりか。あの不定形生物の中の世界で瑠衣を生み、十枚アレクセイと共に家族として過ごした時間を思い出したからこそ、瑠衣のことが口に出てしまったんだろう。それが今のシオの正直な気持ちだと伝わってくる。
だが、シモーヌは言うんだ。
「そうね。瑠衣には申し訳ない気持ちもある。だけどそれでもやっぱり、二十年という時間は大きかったかな。だって、私にとっての瑠衣はもう、二十代の立派な<大人>だから……」
「……!」
ああそうだ。シオにとっての瑠衣はまだ幼い子供かもしれないが、シモーヌにとっての瑠衣は、俺との結婚を決意した時点でもう二十代半ばになってる感覚なんだ。自分のことを自分で決められる、自分の人生を自分で生きられる。
まあ実際には、地球人社会においては三十までは子供みたいな感覚ではあったものの、法律上は一応、<成人>ではある。シモーヌは少なくともそれまでは待ったんだよ。
0
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる